Ordinary days.

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 その写真は穏やかな顔で笑っているリアムの祖母のクララが写っているもので、写真の祖母におはようのキスをした後にそっと元の位置に戻し、ベルベットの小箱に当ててひとつを床に落としてしまう。 「おっと」  そっと拾い上げたそれを定位置に戻したリアムだったが、小箱を開けて中でひっそりと光る小さなリングを見つめて目を細め、これを受け取ってくれた人はまだ夢の中だと写真の祖母に笑いかけるが、その奥にあるその時の空気感も写したような集合写真の己と目が合い、その隣で珍しく満面の笑みを浮かべる端正な顔に無意識に笑いかけてしまう。  その集合写真は本棚の一角に相応しい自分達二人の結婚披露パーティーの時に参加してくれた皆と写したもので、中央にリアムとまだ夢の住人である伴侶がいて、二人を囲むように家族や友人達がいる幸せな時間を永遠に切り取ったものだった。  二人の間で些細だったり深刻だったりする問題が起きた時にこの写真を見れば二人が一緒にいる意味を思い出すことが出来ることからすぐに目に入る場所に飾る事にしたのだが、その写真とその後ろにある文字の書かれた一ダースのエッグハント用の卵や、喝采という名を持つ青いバラを見た後、素足のままリビングと玄関の間の己の趣味のエリアを通過して玄関のドアを開ける。
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