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「……歩いていた」
「じゃあ今もそうしてみないか?」
杖をずっと使っていると片手しか十分に使うことが出来なくなる、そうなるとかなり不便だと思うがと髭の下の口の端を持ち上げると、少年が不安と反抗心を目に浮かべてリアムを睨むように見つめる。
「杖を手放すのが怖いか?」
「怖くなんか……っ!」
無いと続けたいはずの口は閉ざされ、視線は足下へと落とされたことから恐怖を認めたくないのだろうと気付いたリアムが、ファーストペンギンというのを知っているかと問いかけ、視線を上げさせることに成功する。
「群れの先頭で真っ先に海に飛び込む勇敢なペンギンの事だ」
海で待ち構える捕食者にも負けずに飛び込んでエサを取りに行くペンギンの勇敢さを称える言葉だが、それが出来るのはごく一握りの者ー例えの場合は一握りのペンギンーだけだと肩を竦めると、リアムの言葉から先が読み取れないとジェイミーが不安そうに眉を寄せ、そんな息子と通りすがりのリアムの会話を聞いていた両親も不安そうに顔を見合わせる。
「きみは今ケガが治ってやっと以前のような暮らしに戻れることになったが、それでもまだまだ傷を負っている」
だからそれを手放す勇気が出ないのも理解出来ると、今ではジェイミーがそっと手を添えているだけの松葉杖を指さしたリアムだったが、何もファーストペンギンにならなくても構わないと続け、だけどと今度は両親へと顔を向ける。
「……ジェイミー、パパとママは好きか?」
「……うん」
「そうか。杖を手放せばパパとママを同時にハグ出来る」
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