A Man Called Liam. - リアムという男 -

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 リアムが大急ぎとは思えない手際の良さで作ったーと言ってもグリルで肉や野菜やシーフードを焼いただけと、最も苦労を背負っているはずの男は意に介さない顔で笑っていたーディナーとワインやビールを満喫したと、心底喜んでいることを教えてくれる顔で二人の手を握ったヨンソンとゴードンが、シドニー市内のゴードンの家に帰る為に駅に向かうのを玄関前で見送った二人だったが、慶一朗が楽しかったと笑うリアムの横顔に目を細め、職場からの帰路に二人と話していた事を思い出してしまう。  本人達も言っていたが、突然の自宅への来訪、しかもディナー時のそれは余程の仲でもない限りは礼を失したものだが、それすらも笑顔で受け入れるだけではなく皆を満足させられる料理を手早く用意をすることが出来るのは、リアムという男の懐の深さと人としての大きさかと苦笑してしまう。  人畜無害、恐ろしいほどのお人好し。  そんな類いの、リアム・ユズーフーバーという男を形容する言葉では到底表しきれない性情は、良く知らない者からすれば小馬鹿にしてしまい、余計な心配をしてしまいたくなるものだろうが、そんな周囲の嘲りや心配も全て理解した上で、突然の来訪も嬉しいと笑える心の余裕は一体何処でどのように生まれるのだろうか。  我が身に置き換えると己の伴侶の心の広さがまるで異星人か何かのような得体の知れないものにすら思えてしまうが、じっと己の顔を見つめていることに気付いたのか、ヘイゼルの双眸を軽く見開きつつどうしたと顔を振り向けてくれる。
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