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この店では定位置になっているカウンターの最も端のスツールに腰を下ろし、そこに手を付くのではなく背中を預けては音と光の渦の中に飛び込んでいく人達に顔を向けているのは、後ろ手でカウンターに肘を預けて宙に指先でリズムを刻んでいるリアムだった。
親友が経営しているナイトクラブ・アポフィスには毎週末遊びに来ているのだが、フロアで踊る人達の中にリアムが入ることは珍しく、いつもこの席で踊っている人達を納めた視界の中央で気持ちよさげに汗を流している伴侶の慶一朗を見守っていることが多かった。
今夜もいつものようにそれをしているが、いつもとの違いはリアムの隣とその隣に、許して貰えるのならば年上の友人と呼びたい同業者のゴードンとヨンソンがいることだった。
二人の前には二人の好みをよく表している飲み物があり、何気なく視線をそちらに向けたリアムが飲み物のお代わりは良いのかと気遣う声を掛けると、お前はと言った後ヨンソンが口籠もってしまう。
「?」
「前にも言ったがな、王子様というのは傅かれるものであって甲斐甲斐しく世話をするものでは無いだろう?」
「うん、そうだな」
でもどうにもこれは己の性分だから仕方がないと笑うリアムの顔にやらされているというマイナスの気持ちも己への自嘲などもなく、そんな気持ちは遙か昔に通り過ぎてしまった感情だと教えるような突き抜けた笑みが浮かんでいるだけで、その言葉に嘘はないのだろうと二人も気付くが、それにしてもなぁとリアムと同じようにスツールを回転させてフロアで踊っている慶一朗へと二人同時に顔を向ける。
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