A Man Called Liam. - リアムという男 -

42/58
前へ
/824ページ
次へ
4  NSW州に視察にやって来たヨンソンが視察の全ての行程を終えてケアンズに帰る日の朝、前夜にほろ酔いのままナイトクラブで年下の友人達と遊んでいた名残など一切表さないでゴードンと一緒にこちらに来た時には必ず立ち寄る場所へと向かっていた。  二人が向かったのはNSW州だけではなく国内でも有数のビーチを見下ろせる高台にある墓地で、二人を知る者が見れば驚愕に目を見張ってしまうような似つかわしくない小振りの花束をそれぞれ片手に持ちながら鉄のゲートの前でゴードンが運転する車から下りて目的の墓がある場所へと向かう。  学生時代からもドクターとして名を上げてからも二人が揃えば煩いほど口を開いては互いの思いを並べ立てていたが、今はそんな気分にならないのかそれとも別の思いがあるからか、どちらも口を開く事は無く、ただ静かに坂道を上っていた。  目的の墓は海際のエリアではなく道路寄りの端で、二人が立ったのは周囲に比べれば古さを感じさせる墓標の前だった。  故人を偲ぶ文字が掠れてしまう程歳月が風雨となって刻み込まれていて、泉下の友人に会いに来れる回数も少なくなってきた事を、墓石に刻まれているヘデラを撫でながら詫びたヨンソンは、墓石に花を手向けようとして先に手向けられている花束がある事に気付いて手を止めてしまう。  この墓で眠っているのは二人にとっては決して忘れることの出来ない同級生で、その墓に参る人が自分達以外にいた事実に驚き、同じように感じているらしいゴードンと顔を見合わせてしまう。
/824ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加