A Man Called Liam. - リアムという男 -

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 二人が青春の真っ只中を過ごしていた学生時代、今振り返ってもとても悲しい事件があり、その最中に今眼下で眠る同級生が命を落としてしまったのだが、その彼の為に四半世紀を過ぎた今でも花を手向ける人が自分たち以外にもいるとはとの驚きを互いの顔に見いだした二人だったが、その花束の横に無造作に手にしていた花束を置き、遠い過去から笑いかけてくる同級生の顔を思い出す。 「……あいつを覚えているかと言われれば覚えていると返せるが……」  実際、歳月が流れてしまえば目鼻立ちや特徴は覚えているが、それ以外は意外と覚えていないものだなとクイーンズランド州でも最高のドクターと称されるヨンソンが自嘲し、ニューサウスウェールズ州の同じく最高のドクターの評価を得ているゴードンもその言葉に同意する。 「……人がまず忘れていくのは声だそうだ」  優秀だが人の定めとしての命の終わりを数限りなく見届けてきた二人が互いの顔を見ることなく呟く声は日頃を思えば信じられない程の悲哀が滲んでいて、先日突撃して驚愕と呆れを与えた遥かに年下の同じ専門医である慶一朗などが見れば顎が外れてしまうのではと思う程のものだったが、幸か不幸か今この場にいるのは二人だけだった為に飾る事も気を使うことも無く素直に感情を表した結果の溜息を風に乗せる。 「……あいつの声、忘れてしまったな」 「……そうだな」
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