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「……この花、先生だったらいいのにな」
まるで気恥ずかしさを誤魔化すような声にゴードンが視線を友人へと向けると、昨日のランチは先生と三人で食べたが本当に美味かったし楽しかった、ケアンズに戻ったら行き付けのイタリアンでマルガリータを一人で食うことに恐怖を覚えるほどだったと笑うと一瞬ゴードンの目が驚きに見開かれるが、寂しかったらテレビ電話でも何でも繋げ、俺がオペの最中でも出てやると返すと、ディナー時にまで仕事をしている程お前が働き者だったなんて知らなかったなとにやりと笑い、言ってろとゴードンが気軽に返す。
「……お前の家の犬はどうしているんだ?」
「ああ、ボクサーか?」
「そうだ」
ボクサーという犬種の犬にボクサーと名付けるヨンソンに聞かされた当初はただ呆れたゴードンだったが、犬と付けるよりマシだろうと生真面目に言い返されてからは何も言わなかったが、同僚に預けてあることを教えられてそうかと安堵の息を吐く。
「さあ、そろそろ帰るか」
「そうだな……荷物は車に積んであるな?」
このままシドニーの空の玄関口である空港に向かってくれ、ケアンズ行きのフライト情報を確かめようと笑うヨンソンにゴードンも名残惜しさを瞳にだけ浮かべて頷き、足下の墓石に二人同時に顔を向ける。
「……次はいつかは分からないが、また来たいな」
「俺が無理なときはGGに頼んでおく」
だから定期的に花を供えて貰ってくれと笑うヨンソンにゴードンも笑い、泉下でも自分達二人のことを友人だと吹聴してくれていれば良いと願い、胸の内でのみ哀悼の言葉を告げて視線を戻すと、昨日も楽しかった、次はケアンズでバカンス時に会いたいとヨンソンが片腕を突き上げてゴードンがサングラスを掛けて大きく頷くと、四半世紀以上前に眠りに就いた友人に口の中で挨拶をし、今という時間を場所は違えども気持ちは近い場所で生きている友人の腕を叩いて合図を送り墓地を後にするのだった。
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