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10・妖怪だらけの学校!?
「あ、そうだ!」
あたしはまだ体が痛むけど、どうにか立ち上がった。
「おい、まだ起きるな」
ドクにはかまわず、あたしはろくろ首ちゃんの方へ向かった。体が熱っぽくて、フラフラする。だけど、休んでいられない。
「まだウイルスを治してないよ」
このままだと、目を覚ましたらまた暴れ出しちゃう。ろくろ首ちゃんも苦しいままだ。
包帯でぐるぐる巻きの首に、手を当てた。青い光が出る。
「……これで、大丈夫かな?」
すると、ろくろ首ちゃんのまぶたがゆっくり開いた。頭と首が、ムックリ起き上がる。
「ももか!」
御琴があたしの手を引っぱった。
だけど、あたしは下がらないよ。
ろくろ首ちゃんが、寝ぼけまなこでこっちを見る。
「……お姉ちゃん、誰?」
「ろくろ首ちゃん、治ったの!?」
もう恐ろしい顔をしていない。最初に見た、かわいらしい女の子だ。
「よかった!」
ろくろ首ちゃんの小顔に飛びついて、ぎゅっと抱きしめた。思わず涙が出てくる。
「本当に、よかった……」
「ふえ?」
ろくろ首ちゃんがびっくりしたのか、変な声を出した。叫び声じゃなくて、こういう声ならいっくらでも大歓迎だよ!
「何回も力を使ったのが、よかったのね。ももかのねばり勝ちだわ!」
御琴が、肩をポンとたたいてくれた。
気がつくと、しょうけらさんがこっちを見て不満そうな顔をしていた。
「しょうけらさん、どうしたの?」
「ふん、どうしたもこうしたもあるか。オレはだまされないぞ。お前ら人間は、そうやっていい顔をして最後には裏切るんだ」
「そんなことないよ」
「いいや、そうに決まってる。その証拠に、ここだって取り壊すんだろ?」
「それは……」
「お前ら人間は、口先だけの大うそつきだ!」
「そんないい方しなくても……」
その時だ。ドクが、しょうけらさんの前に立ちはだかった。するどい目で見下ろしてる。
「……な、何だよ」
ドクは、しょうけらさんをしばっている縄をほどいた。
「お前もケガしてるんだろ? 見せてみろ」
ドクはしゃがんで、しょうけらさんの体の切り傷にガーゼを当てた。しょうけらさんは、文句をいってやろうと思ってたのか、気まずそうな顔をしてる。
「あ、ありがとな……」
「別にお前なんか、手当てしてやりたくはないが」
「何っ!?」
「だけど、そこにいるお人好しの人間が、お前のことを心配してたからな」
ドクはチラッと、あたしの方を見た。
「お前の気持ちはわかる。オレも人間はキライだ。でも、まあ人間もそこまで悪いやつばかりじゃないと思うぞ」
そういうと、ドクはまた笑顔を見せた。
ドク、本当は人間のこと、少し好きになってるんじゃないの?
あたしはそう思った。
「さあ、これで治療は終わりだ」
その直後だ。ドアの外から、誰かの足音が聞こえて来た。ガラッと開くと、そこに立っていたのは……。
「神宮寺! こんなところで何してるんだ?」
「ウッチャン!」
まずい、妖怪さんたちが見つかっちゃう!
……と思ったら、いつの間にかろくろ首ちゃんたちがいなくなっていた。
「あれ?」
「校庭の方で大きな音がしたから、いったいどこで何があったのか探してたんだ」
ウッチャンは、崩れた天井を見てギョッとした。
「な、何だこれは!? それに神宮寺、そのケガは……」
ウッチャンが、あたしの腕や足に巻かれた包帯を見ていった。
「あ、これは大したことないから」
「大したことあるだろ。見せてみろ」
「本当に大丈夫だから。全然痛くないし……」
……って何だか本当に、全然痛くないや。
不思議に思って、包帯をはずしてみた。
「うそ……。傷がまったくついてない……」
後ろでドクがいった。
「妖怪の万能薬の効果が、こんなところにまで出たのか。まさか本人の傷の治り方まで早いとは……」
「とにかく、ここは危ない。外へ出るぞ」
あたしたちは、ウッチャンと一緒に校舎の外まで行った。
やっぱり、妖怪さんの姿はどこにも見えなかった。こっそり御琴に話しかける。
「ねえ。ろくろ首ちゃんたち、どこに行ったの?」
「ウフフ♡ ドクが持ってる物を見てごらんなさい」
振り返ってみると、ドクは右手に、けずってない鉛筆を何本もたばねたような物を持っていた。先っぽから、薄いピンク色の煙がたなびいている。
「あれは『あやかし隠しの香(こう)』といって、人間はあの煙の香りをかいでるあいだ、妖怪の姿が見えなくなるの。人目につく場所で妖怪を治療する時、使うのよ」
「じゃあ、姿が見えなくなっただけで、本当はいるんだ」
「ええ、そうよ」
「よかった……」
「よくない!」
ウッチャンの大声で、あたしは思わず目をつむった。
「ここは立入禁止になってただろ!? どうして入ったんだ!」
「ご、ごめんなさい!」
「オレや稲生先生が助けに来なかったら、どうなってたことか……」
ウッチャンが、御琴の方に視線を向けた。
「ですよね! 稲生先生♡」
ウッチャンの顔は、ミョーにニヤけている。さっき御琴に誘われたからだ。全部作戦なのに……。
「内村先生、違うんです!」
御琴が、あたしとウッチャンのあいだに立った。
「は? ち、違う?」
「実は、最初に旧校舎に入ったのはこの私なんです」
「は、はあっ!?」
「ちょっと中が見てみたくて、つい入ってしまって。神宮寺さんは私を心配して、連れ戻そうと入って来たんです。だから、悪いのは私です」
「ふ、ふざけないでください! 教師という者が……」
「本当に、すみませんでした!」
御琴がこしを直角に曲げて、頭を下げた。
……あたしがしかられないように、かばってくれてるんだ。
胸の奥がジンワリと温かくなった。
……ん? 待てよ、そういえば。
最初に『立入禁止』の看板をどかして、ドアを開けたのって……、
御琴じゃん!!
中に入っても、ビクビクしてるあたしと違って一番ノリノリだったし……。
なんてことはない。ただ、自分の罪を告白してあやまってるだけ……。
あたしの胸のジンワリを、返して欲しい……。
「とにかく、このことは職員会議で問題にして……」
「あの~、それは別にかまわないのですが……」
「なんですか?」
「そうすると、内村先生がこのあいだ、誰もいない校長室に勝手に入ったことも問題になるのでは?」
「な! ど、どうしてそれを……」
「たしかあの時は、保護者の方からいただいたホールケーキを、ひとりじめして食べていたんですよね?」
ホールケーキってお誕生日やクリスマスに食べる、まるい大きなケーキのことだよね?ウッチャン、そんなことしてたんだ……。ズルい! あたしだって一度でいいから、ホールケーキまるごと一個食べてみたいのに!
「いや、ホールケーキといっても、あれは案外小さくてですね……」
「どうでしょう? 神宮寺さんもケガしてないようですし、ここはおたがい、何も見ていないということにしては……?」
御琴がニヤニヤした目つきでいった。
「ん、んぐ……、まあ、オレは何も見ていませんが」
ウッチャンは「オホン」とせきばらいして、あたしたちの校舎の方に歩いて行った。
御琴とあたしは、ハイタッチする。
「あ、そうだ! ウッチャン」
あたしはウッチャンの前に回った。
「あの校舎だけど……、取り壊しって中止にできない?」
「なにいってるんだ? あんな危険な校舎、そのままにしておけないじゃないか」
「そうだけど……」
「何か、壊したらいけない理由でもあるのか?」
「それは、その……」
まさか「妖怪さんが棲んでるから」なんて、いうわけにいかないし……。
「じゃあ、工事って誰が中止にできたりするの?」
「まあ……校長先生がいえば、中止になるだろうな」
校長先生か……。
次の日、あたしは校長室の前に立って、大きく深呼吸をしていた。これから、校長先生に工事を中止してもらうよう、お願いに行くところだ。
「いざとなると、緊張するな……」
だけど、そんなこといってる場合じゃない。ろくろ首ちゃんたちのすみかを守らないと!
決心すると、校長室のドアに向かって歩き出した。
その時だ。
「お嬢さん、ちょっといいかな?」
振り向くと、ヤギみたいな立派なひげをたくわえたおじいさんが立っていた。
「あ、はい……」
おじいさんはニコニコした表情で、あたしに話しかけてきた。
「どうかな? お地蔵様の具合はもうよくなったかい?」
「はい、それなら元気に……、え!!」
息が止まりそうになった。
「あ、あの、どうしてそれを……?」
「ホッホッホ、びっくりさせてすまなかった。お嬢さんのことは、御琴くんから聞いとるよ」
そういって、真っ白いひげをなでた。
待てよ。あの人の顔、どこかで見たことがあるような……。たしか、あのヤギのような白ひげを、どこかで……。
ふと、今から入ろうと思っていた校長室のとびらが視界に入る。
あれ? たしかこの前、校長室で見たような気が……。
「あっ!」
そうか! かべにかかっていた、これまでの校長先生の写真!
「前の校長先生だ……」
「ホッホ。この学校でずっと妖怪の医者をしてたんじゃが、年には勝てず引退してな。だけど、いつまでも医者がいないとまずいから先月、御琴くんに学校に来てもらったというわけじゃ」
そうだったんだ……。
「てことは、元校長先生も、妖怪?」
ヤギひげの元校長先生は「ホッホッホ」と笑いながら、真っ白な髪の毛をかき上げた。
「あっ!」
おでこに、もうひとつ目玉があった。三つ目小僧だ。いや、おじいさんだから小僧じゃなくて、三つ目じじい。待って、いくら何でも元校長先生をじじい呼ばわりは……。じゃあ、三つ目おじいさん?
妖怪は好きだけど、ウチの小学校の関係者、妖怪多すぎじゃない……。
待てよ……。
その時、あたしの頭の中にイナズマみたいにアイディアがひらめいた。
そうだ! このアイディア、試してみる価値はある!!
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