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「俺はぬくもりを与えるふりをして、ただ知生を抱いてた。同期も上司も逸脱して、知生の苦しみを無視してた。」
じっと見つめると、達喜も私を真っすぐ見た。
「俺といれば、いつかまた知生が前みたいに笑えるようになると思ってた。でも、抱けば抱くほど、知生が空っぽになっていくみたいだった。」
達喜の顔が歪み、また目に涙が浮かぶ。
「怖かった。知生が消えそうで。知生が知生でなくなるみたいで。」
私も涙がこみ上げて
「ごめんね。」
と絞り出すように言った。けれど、達喜は首を横に振った。
「違うんだ。そう思ってたのに、俺、知生を離せなかった。」
達喜が片手で顔を覆い、しばらく黙りこむ。ゆっくりと顔を上げると、悲しそうに私を見た。
「俺の私欲で、知生を俺に縛り付けてた。」
「違うよ!」
「そのせいで、知生は前より笑わなくなった。笑ってたけど、本当の笑顔じゃなくなってた。」
「違うってば!」
「でも、俺と会わなくなったら知生は元気になった。」
「それはね、文さんたちに色々気づかせてもらったからでね。」
「俺じゃ、気づかせてやれなかった。」
「達喜・・・やだぁ、その言い方。」
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