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「うん。なのに気になって、あの店行ってみたり。飲み会で他の奴と楽しそうに笑ってる知生見ると、嬉しいのと、寂しいのとで、ぐちゃぐちゃになったり。いいおっさんが、惨めこのうえないよ。」
「私だって、達喜のことで泣いたり、取り乱したりしてたよ。」
「嘘をつけ。俺なんか眼中にないくせに。面倒臭かったんだろ?」
「ちがうのぉ~~・・・!」
私は頭を抱えてしゃがみこむ。しばらく考えて、ガバッと立ち上がった。
まっすぐ達喜を見つめると、深呼吸をして頭を整理した。
「達喜、まず、確認させて。」
「おう。」
「出口さんとはどういう関係?」
「ん?同じ会社の社員で、友達の婚約者。」
「へ?」
「俺の高校の友達でさ、画家やってるやつがいるんだよ。たまたま出口さんがそいつの個展によく来てくれてて、なんやかんやで俺が共通項だって判明して、紹介して、うまくいって、もうすぐ結婚。」
「そうだったの?」
「うん。知生呼ばなくなってからは、そいつに痔の薬塗ってもらってた。『画家の手をなんだと思ってやがる』とか言ってたけど、毎日きてくれて助かったよ。出口さんとの記念日にプレゼントの指輪携えてきて、俺んち忘れてってさ。ほら、知生と電話した時の、あれ。」
「あれか!」
「あれだよ。」
「そっかぁ・・・」
脱力すると、達喜が笑う。
「なんだよ。」
「出口さんと達喜、付き合ってるのかと思ってた。」
「は?こんなに知生にこじらせてるのに?」
私は意を決して、すたすたと達喜に歩み寄り、胸倉をつかんで引き寄せ、キスをした。
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