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 後輩に30代だと嘘をついてから数日後、夕方に屋上で伸びをしていると、視界の隅にタバコをくゆらす部長を見つけた。 「サボりですか?」 「休憩。」 「喫煙所行かないんですか?」 「あそこ煙いから嫌いなんだよ。」 「煙吐きながら言われても。」 「人が吐いた煙に囲まれるの嫌じゃない?」 「嫌ですね。」  自分の周りを大げさに腕で払いながら言うと、 「この距離じゃ届かねーだろ。」 と部長がしかめっ面で私に向かって煙を吐いた。 「確かに届きませんね。まるで部長の優しさのよう。」 「俺の優しさの飛距離知らねーだろ。」 「そうですね。部長に優しさを向けてもらったことありませんでした。」 「そーゆー意味じゃなーい。」  カパカパと口から煙を出しながら言うから 「腹に蚊取り線香抱えた豚さんのようですね。」 と言うと 「フゴッ!」 と豚鼻をおみまいされた。  フッと笑って会釈し、仕事に戻ろうとすると部長に呼び止められた。
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