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「今夜、どう?」
口をへの字に曲げて
「んー」
と考え込むと、部長が携帯灰皿でタバコを揉み消しながら
「忙しい?」
と訊いてきた。
「残業は回避できませんね。」
「どのくらい?」
「1時間か2時間ってところですかね。」
「ん。俺もそんなもんだ。」
部長が私に近づき、すれ違いざまにキスをする。
「あの店で。」
そう言って歩き去っていく部長からは、タバコの香りがした。嗅ぎなれた匂いが鼻をくすぐっても、私の感情は動かない。
いつから私は何も感じなくなったのか。
思い出すこともできないことを考えるのが馬鹿らしくて、すぐに考えるのをやめて仕事に戻った。
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