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いつもの店で会い、軽く食事をして、体を重ねる。
どちらも独身で、特定の恋人もいない。
なんの問題もないはずだけれど、私達はこの関係を口外せず、この関係がどんな関係なのか確認することもしない。
名前をつけるほどの関係ではなく、名前をつけてまで明確にしたい関係でもない。
そういうことなのだろう。
私の体に腕を絡ませたまま、裸で眠っている部長を起こさないようにベッドから抜け出し、シャワーを浴びた。
服を着て、カバンを取りに部屋に戻ると
「帰る?」
とベッドから部長が訊いてきた。
「起こしましたか?すみません。」
会釈すると、部長がじっと私を見る。
「お先に失礼します。」
「いつも言ってるけどさ、仕事終わりみたいな挨拶やめろよ。」
「部長、いい夢を。」
「あのな。俺としたこと覚えてる?もうちょっとあるだろ、言う事。」
「気持ちよかったです。」
「直球すぎ。嬉しいけども。」
部長が苦笑しながらベッドから立ち上がり、私に近づいて後ろから抱きしめた。
「帰るの?」
耳元で囁き、首筋にキスをする。
「何回訊くんですか?」
笑いながら言うと、部長もクスリと笑って私を解放した。
「おやすみなさい。」
微笑んで挨拶すると、部長が笑いながら小さく息を吐いて
「おやすみ。」
と返す。
静かに、穏やかに、淡々と。
いつも通りの別れをして部屋を出た。
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