1.

1/11
前へ
/129ページ
次へ

1.

 「プロポーション変わらないですね。」  自分のパンプスが響かせている音を聞きながら、口が半分開いてしまいそうなくらいぼんやりして歩いていたら、隣を歩いていた後輩に言われて、抱えていたファイルを落としそうになった。 「へ?」 「運動とかしてるんですか?」  爽やかに訊いてくるこの後輩は、高身長で趣味は野球とピアノ、30代半ばの好青年・・・ではあるけれど、しばしば配慮に欠ける発言が見受けられる。 「してません。」 「40代でお腹出てないってすごいですよ。」  私の下っ腹をにこやかに眺めながら言うので 「30代ではお腹出ててないのは当たり前?」 と訊くと 「まぁ、そうですね。30代のうちは頑張ってほしいかな。」 と微笑みながら返してくる。 「まぁ、私も30代なので。」 サラッと言ってやると、後輩が驚愕の顔で固まった。  私はまじまじと彼を見つめて 「謝るなら早いほうがいいですよ。」 と教えてあげた。 「す・・すみません。」 「いいんですよ。私、お腹は出てないけど顔は老けてるので。」 「いや、若いですよ!」 「40代にしては、でしょ?ま、30代なんですけどね。」 「ご、ごめんなさい!」
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加