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古い校舎の壁の隙間から、みどりの葉がのぞいている。
手のひらのような葉っぱだ。その先にはスマホの充電器をつなげるコードみたいに、ちょろんと蔓が伸びていた。
あなた、どこから来たの。
壁の割れ目をのぞきこんでみる。
すると、ポツッ、と、鼻の頭が濡れた。
「あ」
雨だ。
降ってきちゃった。
と、思っていたら、
「西田さん」
と、声をかけてくる男子がいた。
「雨降ってきたよ」
「……岸くん」
同じクラスの男子だった。
「幸音を待ってるの」
「友だち?」
「うん」
じゃあ、と言って、岸くんは鞄をごそごそし出した。そして折りたたみ傘を取り出して、
「貸したげる」
と言って、私に差し出してくれた。
「えっいいの」
「うん。おれ、家すぐそこだから」
「でも。悪いよ」
「いいって。ほら」
ぱっと傘を広げる。岸くんの傘は紺色で、開くと空が隠れた。
「ばいばい!」
気がつくと岸くんは、走って帰ってしまったのだった。
しょうがないので私は傘をさしたまま、校舎の壁にとどまった。私が傘をさすと、壁の葉っぱも雨やどりできた。
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