戸惑い

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戸惑い

「どうした?なんか顔色悪くない?」 僕が痛む下半身に眉を顰めていると、高校一年から仲良しの浅野 透が顔を覗き込んできた。 「お前は元々色白だけどさ、何か今朝は青いよ。保健室行こうぜ?先生、ちょっと蒼井が顔色悪いので保健室連れて行きます。」 そうさっさと一人で決めてしまった。でもいつも通り強引な透に今日だけは感謝していた。昨日はタカが、用意のできた僕と最後までシタんだ。お陰で今朝は何をしても苦痛で、用意した薬が対して役に立っていない事にため息をついていた。 勿論全部が苦痛だった訳ではないけれど、いかんせんタカの凶悪な持ち物が、僕の慣れない身体には負担だったと言うだけだ。それでも僕はあの時確かに痛み以外の気持ち良さと、それを遥かに上回るタカの全てを受け入れる事が出来た喜びを感じた。 僕はタカにとってのセフレでも、僕がそれを望んでそうしたのなら、それはタカを責める話では無かった。僕は透に支えられながら、時々痛みに息を飲みつつ、ようやく保健室に辿り着いた。 「全く本当に大丈夫なのか?」 そう心配する透に何が言えただろう。僕は弱々しく微笑んで言った。 「ありがとう、透。横になっていれば治りそうだから。もう授業戻って。」 そう言うと、それでも心配そうに振り返りながら、透は教室に戻って行った。養護教諭の小川先生は、僕をひと目見るとベッドで横になる様に言った。それから眉を顰めて小さな声で尋ねた。 「…蒼井君、無理矢理とかそう言う事だったなら、被害届出すかい?」 僕は思わず目を見開いて、先生の眼差しから目を逸らして行った。 「…違いますから、大丈夫です。」 するとじっと僕を見ていた先生は、痛みが強いなら鎮痛剤を飲むかと聞いてくれた。僕が頷くと、ドクターでもある先生はニコッと笑って僕の頭をひと撫でして、持って来た薬を2錠僕に飲ませた。 「…全く。返事はいいから聞いてくれ。私はそう言う事をするなとは言わないが、安全安心であるべきだと思っている。だからちゃんと準備と手間暇かけないそれは、特に男同士は構造的にそうなっていないからどうしたって負担になるんだ。 君は相手にその事を伝えた方が良い。取り合えず、痛みがあるうちは次は無しだ。傷ついて使い物にならなくなったら一生を棒に振りかねない。…もし相手に言いにくかったら、私が言ってやる。どうする?」 僕はまさかの小川先生のレッドカードがタカに出るとは思わずに、少し笑ってしまった。 「大丈夫です。僕からちゃんと言いますから。」 本当に困ったら私に言いなさいと、先生は椅子から立ち上がった。その頃には鎮痛剤が効き始めたのか、僕は痛みよりも眠気が強くなって睡魔に襲われていた。 気づけばとっくに授業が終わって、透が呆れた様に荷物を手に迎えに来てくれていた。チラッと透を見た先生が僕を見るので、僕は首を振って彼が相手ではないと暗に告白する羽目になってしまった。 寮室まで送ってくれた透が部屋の前で立ち去って、僕は部屋のベッドにもう一度身体を投げ出した。だいぶ痛みは引いて、腰も何とかなった。そう言えば昼食べ損なったと思い出した僕は、学園の敷地内にあるコンビニに何か買いに行こうかとスマホを手に扉へと向かった。 丁度その時部屋をノックする音がして、僕は確認もせずにサッとドアを開けた。 「タカ…。」 目の前には顰めっ面のタカが圧迫感と共に立ち塞がっていた。僕は小川先生の警告が一瞬頭をよぎって、思わず言っていた。 「あ、あの、痛みがあるうちは無理だから…。」 するとタカは舌打ちすると僕の肩をぐいと部屋に押し戻して扉を閉めると、先に立って手に持って来たコンビニの袋を部屋のテーブルへと置いた。 「…昼の執行部来なかったろ。保健室で寝てるって安田に聞いたから。昨日どうしたって無理させたから、多分俺のせいなんだろ。まだ、痛むのか…?」 僕はタカがそんな心配してくれるなんて思わずに、少し唖然として、次の瞬間嬉しくなって少し笑った。 「ちょっとだけ。鎮痛剤飲んだらだいぶ良い。もう一回飲めば治ると思う。ちょっと熱っぽかったからぐっすり寝ちゃっただけ。」 タカはじっと僕を見るとそうかと言って、部屋を出て行こうとした。僕は思わずタカの腕を掴んでいた。自分でも信じられないその行動に、僕は自分の手を見つめてハッとして慌てて離した。 僕の前に立ち塞がる影を見上げると、眉を顰めたタカがため息を吐いて冷たく言った。 「…寝てろ。」 僕はその冷たい口調に思わず顔を歪めて、部屋の扉がバタンと閉まるのを見つめていた。たかがセフレに差し入れてくれただけでも喜ぶべきなんだろう。 テーブルの上のコンビニの袋に入っていたおにぎりや飲み物、そしてチョコレートを手に取って、すっかり失った食欲を誤魔化してモソモソとおにぎりをひとつと飲み物を無理矢理飲み込んだ。 「あ、お礼言ってない…。」 僕の好きなチョコレート菓子を見つめながら、それだけがこの関係の慰めの様な気がしていた。
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