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急ごうにも荒れ狂う向かい風のせいで思うように進まず、たった数メートル進むのに十分も十五分も要する。
風が渦巻く。
境内を後にして、何時間歩いただろうか。
ウウウウウウ……と空気の唸る音がし、曇天を刺すように聳え立つ岩山が現れた。
「行き止まりでしょうか?」
「いいえ」と三峪さんは首を振る。
黒い岩壁には段々が削られており、社長達はロープを握って一心不乱に登り始めた。
嘘だろ。こんな悪天候に岩山登山なんて、滑落するかもしれないのに。……全員、莫迦なのか!?
岩山にへばりついて蠢く黒い人影は、遠目に見ると蟻が菓子に群がるのにも似ていて一瞬ぞわりとしたが、三峪さんが続くのを見て即座に追い掛けた。
ぬるぬると滑る階段を這いつくばる。こんなの、どう考えても危ない。戻るべきかもしれない。でもどうやって? 雨宿りできる屋根もない。寒さをしのげる小屋もない。進むしかないのでは? 歩くしかないのでは? そうだ。行くぞ、空木。頑張れ頑張れ。
「頑張れ、空木!」と社長が激励する。
内藤さんも笑って「ライターさん。動画、撮れてる!?」と茶化す。
サタさんやヤナギさんやナカニシさんや名前も知らない面々が笑った。
僕は置いて行かれぬよう急ぐのが精一杯で、iPhoneの撮影状況を確認する余裕などなかった。
東の空が完璧な暗闇となり、西の空もみるみる淀んでゆく。
ああ、陽が落ちる――
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