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「貴方さっきのバスに乗っていましたよね。お節介かもしれませんが、こんな場所に一人でいては危ないですよ」
女性はウンともウウンとも言わずに黙りこくった。その顔面中に濡れた前髪や枯れ葉や草が張り付いているせいで微笑んだのかどうかも読み取れない。
焦れったくなり、いっそ直接訊いてしまおうと思った。
「失礼ですが、まさか、この山で命を絶とうなんて計画では……」
「いいえ」と予想外に、彼女はキッパリと否定する。「私、笠之村に行きたくって」
えっ、と僕は目を丸くした。
女性はくしゃみをし、「笠之村。ご存知ですか?」と繰り返す。
「ご存知も何も、俺達の目的地も同じだよ。旅は道連れ世は情けってなァ……。せっかくだし一緒に行きませんか」
社長は持ち前の愛想の良さを発揮し、たちまち三人で行動する流れにしてしまった。
「俺は泊野と申します。小さな物流会社で社長をしております。こっちは元従業員の、空木」
「あら。泊野さんでしたか。お会いするのは初めてですね。私、ミタニです。三峪与有子」
二人は瞳を輝かせ、話の読めない僕を置き去りに「何だ」「驚きました」「丁度良かった」「これも縁ですね」と調子良い挨拶を交わすと、自然と並んで歩き出した。
初めからこうする予定だったかのように――
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