リズと雨降り入道

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 花見を終えて、月が綺麗な夜。  二人揃って帰ると、家の前に大人の男の人達がいた。片手で数える時に、少しはみ出しそうなくらいの人数だった。 「村長さん?私に何か用事?」  中心にいた村長さんに声を掛けると、彼は濁った目でぎょろりとこちらを見た。 「帰ったか、リズ」  お話があるみたいだから、とりあえず家の中へ招く。他の男の人達は入れそうになかったから、村長さんだけ。  トールと3人で腰を落ち着けると、村長さんは早速本題を切り出した。 「近頃、この村が干ばつで苦しんでいるのは知っているな」 「うん。お水が無いんだよね?」 「そうだ。そこで、村から一人、山神様に嫁いでもらうことにした。リズ、お前にその役目を任せたい」 「え!」  嫁ぐってことは、山神様のお嫁さんになるってこと?どうしよう、私、結婚はまだ早いと思っていたのに! 「待て!あんた達は、この子を生贄に捧げるつもりか!?」  突然、トールが大声を上げ私を守るように抱きしめた。見たこともないくらいに怖い顔をしている。 「生贄?」 「そうだ。こいつらは、山神などといういるかも分からん存在を信じて、リズを犠牲にしようとしているんだ!」 「山神様への侮辱はやめろ」  段々状況を理解し始める。 「私、殺されちゃうの……?」 「心配するな。俺がそんなことはさせない。絶対に、させないからな」  抱きしめられる腕にますます力が籠もる。村長は、そんな私達を嫌に冷静に見据えていた。 「……ならばトール、お前が代わるか?」 「…………何?」 「お前が水神様の生贄に立候補すると言うのなら、リズを見逃してやろう」  トールが押し黙る。その沈黙が怖くて、恐る恐る腕を解いてトールを見上げる。やがてトールは、ぎゅっと閉じていた目を開いた。 「トール……?」 「……俺が代わりになることでリズが助かるのなら、迷う必要はないな」  トールが立ち上がり家を出ると、待機していた男の内二人がその両脇を固め、何処かへ歩き出した。続けて村長も外へ出て、茫然としていた私はハッと息を呑んでトールの背を追った。 「トール……!?何処へ行くの?嫌、やめて!」  男が一人、私を取り押さえる。残りは村長の周りを固めた。  トールが一度、足を止めてこちらを振り返る。それは月が照らす、出会った時と同じ彼の微笑み。こんな時だというのに、美しいと思った。 「リズ、助けてくれて、この一月(ひとつき)を共に過ごしてくれて、ありがとう。どうか、どうか、幸せに生きてくれ」  それきりトールは前に向き直ると、両脇の男達と共に森へと消えて行った。  村長さんは「これより儀式を始める」と周囲に言い置いて、最後に私に無情な声を掛ける。 「これで用件は仕舞いだ。邪魔したな」  いつの間にか拘束は解かれていて、私はその場にへたり込んでいた。    トールは、二度と戻ってこなかった。    
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