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数秒、呆然とした。
見間違いかと思った。
だって数分置いていただけなのに、一瞬で抱えて走り去られるなんて。
と思ったものの、すぐにそんな甘い考えは吹っ飛んだ。
ボストンバッグの持ち手から、ひらひらとはためいているのは、これまた大切なもの。
白いスカーフだ。
間違いない、あれは私の……。
「それ! 私の……っ!」
声を上げた。
呆然とした気持ちは吹っ飛んだ。
だって今、まさに目の前で荷物を盗まれてしまったのだから。
即座に追いかけなくては、奪われてしまう……!
「待ちなさいっ!」
ダッと地面を蹴った。
スタートダッシュは綺麗に決まり、私は泥棒に向かって、全力で駆ける。
これでも子供の頃から鍛えている。
足にもそれなりの自信があった。
なのに泥棒はもっと速度を上げる。
嘘、こんなに速いなんて。
私はギリッと奥歯を食いしばった。
だが負けるわけにはいかない。
大事な荷物を失くすなんて絶対に御免だ。
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