10人が本棚に入れています
本棚に追加
必死で追いかけた。
苦しくなりつつある息でなんとか叫ぶ。
「泥棒! 誰か……、捕まえて!」
しかし応えてくれるひとはいなかった。
ちらほらひとはいるのに追おうとするひとはいない……。
なんて冷たいの!
都会のひとときたら……!
違う悔しさにもう一度、歯を食いしばる。
その間にも泥棒は駆けていき、角を曲がろうとした。
いけない、視界から離れたら終わりだ。
どうとでも身を隠せるだろう。
でもいくら全力で走っても追いつけないし、先に曲がられてしまう……!
ダメなのか、盗られたままになってしまうのか。
心臓がさらに冷えたときだった。
「はぁっ!」
突然、角を作っていた塀の上から、大きな掛け声と共に影が落ちてきた。
私の心臓が、違う意味にどくんっと跳ねる。
一体、なにが。
驚いたのは私だけではなく、泥棒もだった。
速度が一瞬落ちる。
それをチャンスと見て、落ちてきた影は、長いものを振りかぶった。
その影が宙に弧を綺麗に描いた、数秒後。
「セイッ!」
聞き慣れた掛け声が響く。
と同時に、バチンッと硬いものがなにかに叩きつけられる音が跳ねあがった。
直後、その影がスタッと地面に着地する。
最初のコメントを投稿しよう!