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「──…っ?!大丈夫ですかっ?」
私のその行動に驚いたのか、先程の隊員が再び声を掛けてくれた。
『っあ、あの・・・鏡ってありますか?何だか目が見えづらくて』
凪砂に聞こえないように小声で言ったつもりだったが、隊員の人の声が大きかったせいで、近くに凪砂が座った気配を感じた。
「萩花、何してる・・・痛むのか?もうすぐ着陸する。とりあえずその汚ないタオル・・・違うのに取り替えろ。」
そう言って私の前に跪くと、押し当てているタオルを遠慮がちに外した。その瞬間、凪砂の目が大きく開かれたのが何となくボヤけた視界に移った。
汚いと言ったタオルを、再び私のおでこに押し当てた凪砂は、もう片方の手で、私と瀬凪を繋いでいる抱っこ紐のベルトを外した。
何をするのかと、抵抗しようとするけど、凪砂にそれを阻止されて呆気なく瀬凪が抱っこ紐から滑り落ちる。
「──…山下、子どもの方を頼む」
そばに居た先程の隊員に凪砂がそう言って、私の上に乗ったままの瀬凪を山下さんと言う人が取り上げる。
『……っあ…待ってっ!』
慌てて瀬凪に手を伸ばす私の手を押さえ込み、凪砂は自分の膝の上に私を寝かせる。
「お前っ・・・いつからケガしてたっ?吊り上げてるときはこんなに出血してなかっただろっ?!何で言わねぇんだよっ!」
珍しく焦っている凪砂を見ていると、逆にこちらが冷静になってくる。
もしかして結構深く切れているのだろうか?パックリ裂けてしまってるとか?自分ではケガの度合いが分からないけど、凪砂が相当焦っているということは分かる。
「そもそもっ・・・何で船なんか乗った?お前、、海には近寄らねぇんじゃなかったのかよっ・・・何でっ、こんな・・・」
私の額を抑える凪砂の手が微かに震えているのが伝わってくる。
「潮崎さんっ・・・もう着陸ですっ!お知り合い・・・ですよね?すぐ搬送して貰えるように手配しておきますっ。」
山下さんはそう言うと瀬凪を抱えたまま、どこかへ行ってしまった。
堪らず不安になった私は、傍にあった凪砂の腕をグッと掴む。
「……萩花?」
心配そうに私の顔を覗き込んだ凪砂に、必死に頼み込む。
『せなっ・・・子どもっ・・・助けて!お願い、凪砂っ・・・凪砂が守って・・凪砂がっ』
他の人に預けるのが心配で、瀬凪と離れるのが怖くて、気が付けばそんなことを口走っていた。
瀬凪のことが凪砂にバレてしまうとか、今はもうそんなことを考えている余裕がなくて、、
本当に失礼なことを言うようだけど、救助隊とはいえ、全く知らない人に抱えられた我が子が視界から消えるということは、私にとっては不安以外のなにものでもなかった。
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