第十章 捜して欲しい 五

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 朽木の部屋で目が覚めると夜で、慌てて陽洋に電話を掛け、帰らない旨を連絡しておいた。  そしてキッチンに向かうと、冷蔵庫の中身を確認し、大鍋でビーフシチューを作ると、ご飯もセットしておいた。だが、まだ肉が大量にあったので、からあげも作ると、トマトのサラダを用意した。  そして、朽木を起こしに行くと、そのまま抱きつかれ、ベッドに押さえ込まれた。  だが、完全に朽木は眠っているので、これは無意識らしい。そして、想像以上に腕力があり、腕を振りほどく事ができない。 「朽木、時間!」  朽木は、俺に抱きついたまま、俺を掛け布団代わりに眠り続けようとしていた。 「ゲ!」  俺は人の姿のままでも、多少は竜の能力が使用できる。それでも、全く振り解けないというのは、相当なものだ。しかも、息が止まりそうになるくらいに、抱きついてくる。  もしかして、これは抱きついているのではなく、締め殺そうとしているのだろうか。  「ギブ!ギブアップ!朽木、起きて!」  ジタバタしていると物音がして、ドアが開くと、そこにハンザが立っていた。  そして、押さえ込まれている俺を見て、微妙な表情をしていた。 「ハンザ!朽木を起こしに来たら、捕まった!助けて!!」 「…………朽木は、寝惚けが凄くて……誰も寝ていると近付かない。今までも、目覚ましを持ってきて、セットするだけにしていた」  ならば、その目覚ましをセットして欲しい。 「目覚まし!」 「…………これだよ」  その目覚ましというのは、かなり巨大なもので、バケツくらいあった。そこに、お椀のようなベルが付いている。 「セット!」 「これ、かなり、うるさいよ…………」  そして、ハンザは目覚ましをセットすると、部屋を出た。 「え?ハンザ?」  そして目覚ましを見ると、小さく光った感じがした。 「ジリリリリリ!!!!!!ジリリリリリ!!!!!!!!!!!!!」 「え!!?うぎゃ、あああ!」  これは、脳天に響くうるささで、耳を塞ぎたいが手を抑え込まれてしまっていた。そして、手を抑え込まれているので、目覚ましを止める事が出来ない。 「うわああああ!耳が痛い!!」  俺は転がって目覚ましから遠ざかろうとしたが、どうにも朽木が邪魔をする。 「ピコン、ピコン、音量が上がります」  しかも、目覚ましから変なアナウンスが流れている。 「ジリリリリリリ!!!!!ジリリリリ!!!!!」 「うわあああ…………」  もうベル以外は、何も聞こえなくなっていた。そして、再び音量が上がるアナウンスが流れたので、俺が目を閉じると、少し腕が動いた。  そして、その隙に逃げようとすると、朽木が俺の頭を掴んで、自分に近付けていた。そして、目を細めたままで、俺を見つめて首を傾げていた。
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