17 あるそしきの記録【ミステリー】

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※2  行方不明だった息子の居場所をようやく突き止め、手紙を出しつづけた結果がこうも虚しいとは。  人生とは全く無情である。  苦労して大学まで入れた一人息子の遺体が、異国の廃墟で発見された。残されたたった一通の手紙は、遺体発見から1か月前に自宅へ届いた。  Tシャツに短パン、手首と足首に拘束の跡、痩せ細って注射針の跡だらけの遺体は笑っていた。同じような遺体は、息子の他に17体見つかったそうだ。解剖の結果、死因は何らかの薬中毒によるものとのこと。詳しくは不明だが、幻覚作用のあるものらしい。  周囲には少し前まで人のいた痕跡があるものの、注射器や薬品などは何1つ残されていなかった。廃墟には教室や食堂、多くの寝室があり、まるで全寮制の学校のような風だったという。    不思議なことに、現地の警察は捜査を打ち切ってしまった。この恐ろしい事件はメディアにも一切触れられず、SNSでも騒がれることはなかった。  手紙に書かれていた地名・人名はすべて架空。  しかし私は、なけなしの情報から想像できうる限りのことを調べた。複数の人名が浮上してきたが、誰もが偉大とあおがれる有名人ばかりだ。  誰も私の話に聞く耳を持たない。  妻はショックのあまり寝込むようになり、憔悴して今にも死んで終いそうである。  何一つ納得できないまま、事件は風化しようとしている。  息子が最期に見ていたであろう世界を、私は知ることができない。息子を死に追いやった者の正体も、掴むことができない。  息子は心配するなと手紙をよこした。  私は不安で仕方がなかった。  息子は笑って死んだ。  私は悔しくて仕方がない。  息子が安らかな最期を迎えたなら、私は親として――これで良しとすべきなのだろうか。  息子は何不自由なく純真に育てたつもりだ。衣食住はもちろん、勉学にも趣味にも惜しみなく援助してきた。失敗しないよう、苦しまないよう、惨めにならぬようにと常に気を配った。  卒業旅行に行くという時も、念願の海外だとはしゃぐ息子に十分な旅費を与えてしまった。  今は後悔している。  世の恐ろしさ、生身の人間の残酷さを教えなかったことを。  籠の鳥は――野獣の餌食となるだけだというのに。
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