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ジュウジは、メジロが心配だ。
それは同じ釜の飯を食った仲で、今の住処を紹介してくれた恩も有るからだった。
言い寄られて身体を許してしまったくらいには、好きでもある。
ただ、その好きは友情の面が強かった。
いくら色気があっても、兄への愛には勝てない。
メジロは小鳥らしく飛び回っているわけだし。
ただ、飛び疲れた羽を休める小枝くらいにはなりたい。
その思いも、本当だった。
午後三時のファミレスは程良く混んでいた。
コノオは大きく切ったハンバーグを口に運ぶ。
「で、あの金髪の子とはどうなんです」
イナリはブラックコーヒーを一口飲んで問うた。
「今アタック中」
コノオの返答に微笑む。
「でも意外ですね。貴方がまた人を好きになるなんて」
「悪い?」
「いえ。ただ過去の事が有るから」
薄紫の眼が一瞬黒を見てからまた外された。
「元彼がいる事くらい知ってますよ。警察を舐めないで下さい」
イナリにその話はしていない。
意外とこの人もやるもんだな、とコノオは心の中でだけ褒めた。
カラン、と扉の鐘が鳴り、同時にひらりと何が落ちる。
それはドアに挟まっていた手紙だった。
メジロの刺青に侵食された指は白い封筒を拾う。
店のソファに座り、それを開封した。
1週間後、またデートをしよう。
知っている筆跡でそう一言だけ書いてあった。
メジロは無意識に口角を上げる。それはヨリタカの字だった。
鷹の男はあの日以来、ニ週間ほど連絡を絶っていた。
それはそうだろう。あんな事が有ったら気不味くもなる。
逆に立ち直るのが早いと思った。
メジロはインクの字をなぞる。
愛しい鷹にまた会えるのは、純粋に楽しみだった。
そして一週間が過ぎ、約束の日が来た。
メジロは耳にカフスを、右人差し指に銀のリングを付ける。
そんな粧しをするくらい、るんるんとしていた。
集合場所はメジロの店だ。
カラン、と入り口の鐘が鳴った。
おはよう、と声を掛けかけ、メジロはぴたりと固まる。
中に入って来たのは、満月の男だった。
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