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もう日差しは熱い。
その太陽が支配した青空を見て、レオは目を細めた。
「いつも此処で食ってたんだ」
コノオについていくと、屋上に出た。
此処に続く階段に置いてあった侵入禁止の札を無視し、扉の前に有ったカラーコーンも跨ぐ。
ガチャリとドアノブを回した途端、熱気が肌を刺した。
誰も入ってこれない屋上は、一人で居るには丁度良い。
しかし、一般生徒もレオも来ようという意思さえ無かった。
コノオはレオの問いを無視し、今出てき来た建物の裏に回り日を避ける。
何なんだ、こいつは。
取り敢えず銀の隣に座り込んだ。
彼はスクールバッグから四角い包みを出す。
それはどう考えても鞄に入れていいサイズではない弁当箱だった。
しかも二つある。
狐のデフォルメシルエットが印刷された桜色の弁当箱は、無口なこの少年が持つにはあまりにも可愛らしかった。
もう一つの弁当箱は、銀に光るアルミの物だ。
意外だなあと思っていると、コノオは蓋を開けた。
中には卵焼きや唐揚げといった定番のものから、花型に揃えられた人参、蕗、練り物だと思われる綺麗な球、いくらなど、料亭かという様な豪華な物まで入っている。
そういえば、こいつは良いとこの子だった。
アルミの弁当箱は白米で真っ白だ。でも、米は立っている。
それを横目にコンビニのメロンパンの袋を開けると、コノオはいただきます、と呟いて黒い箸を持つ。
コノオの声を初めて聞いた。案外低くて、落ち着いた声だ。
レオはメロンパンを齧りその様子を見つめた。
すると驚いた事に、メロンパンの袋をくしゃくしゃにする頃には大量だった弁当箱は両方空になる。
コノオが大食いで早食いなのは、意外だった。
それに何となく噴き出すと、金の眼はこちらを向く。
レオは、なんとなくコノオに興味が湧いた。
それからレオとコノオはたまに昼休みを一緒に過ごすようになった。
太陽は日を追う事に本気を出してくる。
その灼熱の光を避けても、空気がもう暑かった。
最初はずっと無言だったが、少しずつレオが話し掛けるようになる。
勉強の話や教師への愚痴。コノオは頷くだけだったが、やがて視線をレオに向けるようになった。
「なあ、コノオも何か喋れよ」
どんなに日が強くてもコノオは黒マスクをしている。レオが銀の視線を投げ続けると、観念したように下を向いた。
「……俺は、狐が好き」
ぼそ、と聞こえるか聞こえないかの小声で呟く。薄々知ってる情報だったが、レオはコノオが心を開いてくれたのが嬉しくて、ニヤついてしまった。
「そうだよなあ……狐飼ってるもんなあ」
レオは二人の前で丸まっている仔狐を見ながら言った。
「あの狐って、見える奴と見えない奴が居るんだろ?」
それはダイチから聞いた噂話だ。
帝国院コノオが連れ歩く仔狐。
その幻覚が見えるのは仲の良い奴だけだって。
コノオは頷いた。
「イマジナリーフレンド……って言うと違うのかな?いつから居るんだ?」
好奇心の質問をすると、コノオは仔狐を見る。
「……産まれた時から」
へえ、とレオは相槌を打った。
「ダイチがお前の彼女から聞いたって言ってたぞ」
早乙女ダイチは噂話が好きな奴だ。彼女本人が言ってたから、この情報は本当だぞ、といつになくドヤ顔で言っていたのを思い出す。
「ってか、彼女居たんだな」
天涯ボッチの人間だと思っていたので、そんなに親しい生徒がいたという時点で驚きだ。
そして、なんだか面白くないと思う自分が不思議だった。
しかしコノオは薄紫の眼を丸くする。
そんな驚いた顔、初めて見た。
「……彼女じゃない」
え、とレオは漏らす。
「……多分その子、一回キスしただけ」
は?と今度は銀の眼が丸くなった。
「彼女じゃない奴とキスしたんか!?」
意外と初心なレオは、その恋愛感覚に驚く。
すると、コノオは初めて笑った。
クツクツ、と、意地の悪い笑い方だ。
「したこと無いの?」
そう言うものだから、レオはキスくらいあるし!!と叫んだが、嘘とバレバレだろう。
「してみる?」
コノオは言いながら黒マスクを顎まで下ろした。
くい、と顔を近づけられ、レオは素っ頓狂な声をあげながら転がる。
「お、お前の彼女じゃねえんだぞ俺は!!つか男同士で、そんな事……!!!!」
顔が真っ赤なのを見たからだろう。コノオはまたクツクツと笑った。
「も、もう……からかうなよバカ!!」
そう悪態を吐くが、レオも笑う。
笑うと可愛いじゃん、と、ふと過った心は言わなかった。
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