背徳と闇の帷ー04

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空が太陽を追い出し星を連れてくる。 暗くなってはきたが未だじとりと暑い外にレオは出た。 伸びをしてスクールバックを背負い直す。 さあ帰ろうと前を向いた時、ふとその影が目に入った。 小さな、黄色い生き物。 それがコノオが連れている仔狐だとわかり、背がぞわりとした。 右を向き、闇夜の電灯に照らされた銀に目が行く。 何故こんな所に、と問う前に黒マスクが動いた。 「此処のバイトをやめろ」 は?とレオは漏らす。 「今すぐ、このバイトをやめろ」 初めて、コノオから話し掛けられた。 しかし、いきなり言われても理解出来ない。 しかも、その内容は突拍子がなかった。 「……別に、お前には関係ないだろ」 短時間高収入だから続けてるだけのバイトだったが、なんとなくの愛着はある。 だから急にやめろと言われて、はいやめますと納得するわけがなかった。 コノオは返答をしない。 舌打ちをして背中を見せても、何も言ってこなかった。 何なんだよ、とイラつく。 レオはそのまま歩き出した。 背中に視線を感じる。 だが、コノオは追って来なかった。 それからレオは、コノオの視線を無視するようになった。 ただ夏の前と同じになっただけ。 それなのに、たまに薄紫をちら見てしまう。 そんな自分の意識を不思議に思ったが、仲直りする気はさらさら無かった。 ピンク色の照明に照らされた空間。 外の夕暮れはまだ暑かった。 レオは静寂の店内で頬杖を突きながら、ぼう、としている。 コノオは今どうしているだろうか。 そんな事を考えてしまうのは、何故だろう。 欠伸をしていたら、急に外へ続く引き戸が開いた。 反射で挨拶をしかけ、体が固まる。 入って来たのは、薄紫の眼と黒マスクの少年だった。 コノオ!?とひっくり返った声で呼ぶが、彼は真剣な目で詰め寄ってきた。 カウンター横から侵入し、レオの腕を掴む。 思いの外強い力で、レオは逆らえなかった。 「ちょっ!なんだよいきなり!!」 不満の言葉を無視し、コノオは何か封筒をカウンターに叩きつけそのままレオを引っ張って店から駆け抜ける。 絡れる足で走ると、店の外はパトカーで囲まれていた。 銀眼を見開いて驚いたが、腕を掴んだコノオは構わずその脇を走り抜ける。 「伊東さん!?!?」 レオはその視界の端に桃色を見つけつい呼んだ。だがイチロウは微笑んで手を振るだけだった。 ぐいぐいとコノオは走るが、やがて右に曲がり路地裏へ入る。 やっと手を離され、レオは呼吸を整える為に足を止めた。 「なん、何なんだよ……!!そんなにSMがいけない事かよ!!」 バイト先のSMクラブが警察に囲まれている。 レオは、それが差別されている様に感じた。 自分がそういう性癖ではないのに、それが腹立たしいのは自分でも不思議だが。 「何なんだよお前は!!なんでこ 怒鳴り声は消された。 それを消したのが唇にもたらされた柔らかい感触である事に気付き、怯む。 薄ら開いた歯から、濡れた何かが口内に侵入してきた。 それがコノオの舌である事を認知して、顔に血が昇る。 しかし、呻めきはコノオの中に吸収された。 遠い所でサイレンの音と怒鳴り声が聞こえる。 あのガキ、逃げやがった!!という店長の声も聞こえた。 「鼻で息して」 一瞬だけ解放した唇はそう耳元で呟きまたレオの口を塞ぐ。 その初めての感覚に体の力が抜けるが、コノオの右手がレオの背中を支えて何とか立てていた。 気持ち 良い コノオのキスに、レオの頭は考える事をやめる。 サイレンの音が、暫く鳴っていた。
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