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結論から言うと、レオのバイト先のSMクラブで麻薬の密売が行われていた。
目の前に座っている伊東イチロウは、潜入調査の為にあの店に通っていたらしい。
「あの女王様達は悦い人達だったけれどねえ……」
潜入捜査と言って、この人は十分たのしんでいたようだが。
レオはイチロウと向かい合わせに座っていた。
警察署の事情聴取、というやつだ。
「まあ君は何も知らなかったわけだし、バイトも辞めていたから特に罪は無いよ」
そう、何故か辞めている事になっていた。
コノオがレオを連れ出す時にカウンターに残した封筒。それは退職届だった。
勿論レオはそんな物を書いた覚えは無い。
「あれ、受理されたんですか?」
「うん。受理“させた”よ」
イチロウの桜中の白眼は、それ以上追及するのを阻む色をしていた。
結局、聴取は1時間程で終わった。
事情聴取は直ぐに終わったとはいえ、外は暗くなっている。
事が事だけに内密にされたが、それ故両親に帰りが遅くなった事を伝えなければならなかった。
一応電話をし、母親に小言を言われる前に赤い受話器のボタンを押す。
ふと前を見ると、銀と黒マスクの少年が灰色スーツの刑事官と話をしていた。
その薄紫がこちらを向いたので、こ〜〜〜〜〜の〜〜〜〜〜お〜〜〜〜〜〜〜!!!!と唸る。
刑事が離れていったので、レオはコノオに詰め寄った。
しかし薄紫色は変わらない。その普段通りの彼を見て、逆に脱力した。
「……なんで、俺の事助けたんだよ」
それに、あんな事。
口内の感触を思い出し、顔が熱くなった。
コノオはそんなレオを見て目だけで笑う。
揶揄われたみたいでムカついた。
「お前にとってはどうでもいい事だろうけど、俺にとってあれが初めてだったんだぞ!!」
レオはコノオの肩を殴る。
「知ってる」
黒マスクの下で呟いた。
「だからした」
言葉の意味がわからずレオは一瞬黙る。
「……俺は、恋人以外となんてキスしたくない」
怒りと、戸惑いと、憎しみを込めて言ったが、コノオの表情は変わらなかった。
「じゃ、飯行こ」
黒マスクは簡単に話題を変える。
レオはまだ怒っていたが、コノオはすたすたと歩き出した。
待て、とレオも後に続く。
奢れよこの野郎!と罵倒はするが、その背中を追ってしまった。
暗くなった道の明るい方へ歩いていく。
もうやけ食いしてやる、と思っていると、するりと手を握られた。
その繋ぎ方が恋人のそれで、レオは寿命が縮むような心臓の跳ね方をする。
本当に、何なんだよ!!!!!!と思うが、顔の熱は引かなかった。
仔狐が、二人の後をついて行く。
闇の帷の中で、薄紫の眼は宝石の様に金を映していた。
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