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「なあアキノ」
ユウリはベッドに腰掛け、指を組んで俯いていた。
「俺は、弱いのかな」
それは、アキノが初めて聞いたユウリの弱音だった。
「俺は強くいたかった。この世の全てに。家族に、学校に、アキノに、良い人間に見られたかった。でも、それは出来てなかったんだな」
アキノは大きく首を横に振る。
「ユウリは強い。そう思って頑張って来たんだから、絶対に強いよ」
「でも俺は通院レベルなくらい病んでるらしいだろ」
「精神病は心が弱いからなるんじゃない」
アキノはきっぱり言った。
「世界に優しいからなるんだ」
アメジストの眼が赤い眼に向く。
その色は、少し濁って見えた。
7.止まり木
イナリは闇眼を開けて、隣に居る筈の身体が居ない事に気付く。
その背中がキングサイズのベッドの端に居るのを見つけ、もそもそと寄り添った。
半裸の兄、富地ゲッコウの背中に張り付いても、おはようの挨拶も無い。
ゲッコウの海の眼は、虚に床を見ていた。
また、あの男の事を考えている。
それは長い間兄弟をしていたからわかる事だった。
兄さん、と声を掛けたら、ゲッコウは無言で立ち上がりクローゼットに向かう。
シャツを着、鈴の付いたチョーカーを手にして、部屋を出て行った。
ゲッコウ兄さんは、一人で背負い込み過ぎる。
その苦しみを共有出来ないのが、イナリは悲しかった。
ゲッコウは、メジロとかいう男に会いに行くのだろう。
あの男が自分より愛されているという事から、イナリは嫉妬をしていた。
夜の部屋は暗い。
その間接照明だけの空間で、二人の金蜜の眼は輝いていた。
ミドリがベッドに組み敷いたジュウジの身体を弄ると、ピクリと跳ねて可愛らしい。
キスを落とせばピアスの硬い感覚と、唇の柔らかい感触を感じた。
「……ジュウジ、何か考え事してるでしょ」
その自分と同じ色の眼が虚なのを指摘する。
いっ、いや、とわかりやすく動揺する唇に指を当て嗜めた。
「僕に隠し事は無しだよ」
そう言って明青の髪を軽く引っ張ると、叱られたのだと理解したようだ。
「……メジロの事だ」
その言葉に首を傾げると、ジュウジは続けた。
「あいつが煙草を吸っていたのを見たんだ」
「えー……?あいつ吸わない奴だよね?」
「だから心配になった」
成程ね、と納得したミドリの眼を、ジュウジは見ていない。
「ジュウジってメジロの事好きだよね」
ミドリが組み敷いた肩に肘を付けて頬杖を突くと、ジュウジは目を見開いて考え込んだ。
「す、き……なのだろうか……いや!!俺が一番愛してるのは兄さんで……!!」
「知ってるよ。でもメジロと寝たんでしょ」
素っ頓狂な反応をするジュウジを逃さないように押さえつけると、ジュウジは堪忍して自白する。
「……に、兄さんを迎えに行く前、に……一度だけ……ごっごめんなさい!!本当にごめんなさい!!!!」
目を泳がせるジュウジが可哀想で、ミドリは満足して笑う。
「いいよ、過去の過ちとして許してあげる」
ミドリは豊満な胸をジュウジになすりつけ、腰を思いっきり叩いた。
「でも嫉妬したから、今日は優しく抱いてあげられないな」
叩かれた痛みに唸るジュウジに、意地悪な笑みを浮かべる。
ジュウジは捕食される小動物の気持ちになったが、ミドリの妖艶さに興奮した。
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