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その血は紫を孕んでいる。
分家と言えど、帝国院の者であるその少年も、薄いアメジストの眼を持っていた。
6.銀と金
夏と呼ぶにはまだ早いが、空気は熱を持っている。
銀の髪の少年は、黒い仔猫を抱えていた。
その猫を飼い主である幼女に渡す。
「たんていのおにいちゃん、ありがとう!」
依頼人である幼女の腕の中で、仔猫はにゃあと鳴いた。
「もう、くろちゃん!かってにそとでちゃだめっていってるでしょ!」
仔猫はその言葉を理解できないだろう。でも、そのやりとりが微笑ましい事には変わりなかった。
「これ、ほうしゅう!」
幼女は肩に掛けていた黄色の小鞄から飴の包みを差し出す。マスクの少年は、ありがとう、と小声で言い受け取った。
「ほんとうにありがとう!きつねちゃんもまたね!」
駆け抜けていく幼女に手を振る。その様子をたまたま見掛けた通行人は首を傾げた。
通行人には、キツネなど見えなかったからである。
少年、帝国院コノオは黒マスクをずらし、黄色い飴玉を口の中に放り込んだ。
「相変わらず子供には甘いですね」
その様子を見ていた男に薄紫の眼を向ける。
灰色のスーツの男は、そこそこの仲の人間だった。
「イナリか」
少年は不意に男の名前だけ呼ぶ。そしてその隣を歩き始めた。
似たような道と建物の住宅街。
そこに留まる銀の車に乗り込み、コノオは助手席に座った。
「これ、この間の報酬です」
朝日より明るいネイルの指が、封筒を差し出す。
それを受け取り、中身を確認せずスクールバッグに突っ込んだ。
帝国院コノオは、高校生だ。
無口な彼に友達と呼べる同級生は居らず、部活も帰宅部だった。
しかし、コノオにはあまり知られていない顔が有る。
彼は、探偵をやっていた。
ひっそりと住宅街に事務所を構えるため、依頼も今みたいな小さなものばかりだ。
しかし、コノオの推理力は肩書きに恥じない。
警察である富地イナリが捜査に同行させる程だった。
今渡した封筒も、この前の依頼で事件を一つ解決させた報酬である。
「お腹すいた」
黒マスクの下で口を少しだけ動かした。
「……まあ、おやつの時間ではありますね」
イナリは左手首の細い腕時計を見る。
「ファミレスでいいですか?」
黒い眼を向けると、コノオは頷いた。
銀の車はエンジンを掛ける。
暫くすると、外気より車内の方が涼しくなった。
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