水曜日の雨は羽衣

2/14
前へ
/14ページ
次へ
 水曜日のお昼過ぎ、私は決まって、渡り廊下を通る。  水曜日の五限目は選択授業。  公立高校の美術教師である私は、毎週この時間、職員室を出て渡り廊下の向こうにある美術室へと向かう。  その途中にある、目測五、六メートルの渡り廊下。時間にすればほんの何十秒かで通過出来る。  その僅かな間に、雨が降る。  私が渡り廊下に差し掛かると、必ず雨が降る。  ぱぱ、ぱらら、と雨の始まりを(しら)せる合図のような音もなく、薄いカーテンをさっと引くように、雨が降る。  そして渡り終える頃には上がっていて、空はすぐさま晴れ渡る。潔いほどのにわか雨。  曇天の日ならまだわかる。けれど、まっさらな綿のような白雲からも、時には雲ひとつないカラリと晴れた青空からも。  羽衣(はごろも)のようなその雨は、水曜日、必ず降る。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加