水曜日の雨は羽衣

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 すとんと腑に落ちて、以来、私はあっさりと人生から恋愛を排除した。  幸いにも公務員だ。余程の事がない限り、一人で生きていくにもきっと困らない。頃合を見て単身用の分譲マンションでも買って、一人で慎ましく過ごせばいい。  そんな事ばかり考えて暮らしていた。  恋なんて、避けようと思えばいくらでも避けられるものだ。  異性と目を合わせない。必要以上に話さない。話す時は事務的に、言葉数は最小限に。お世辞や愛想笑いなんてもってのほか。  母の掛けた呪いは、しっかりとその役目を果たしていた。  ねぇお母さん。私、あなたに感謝してる。  あなたの呪いのおかげで、私は恋に泣くことも、身を滅ぼすような愚行に走ることもせずに、今までもこれからも、ただ静かに、燻るように生きていく事が出来る。
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