水曜日の雨は羽衣

　その週の水曜日は、朝から強い雨が降り続いていた。
　台風が近付いている影響で、強風を伴う雨だった。大粒の雨が勢いよく窓ガラスに叩きつけられている。
　そんなことをぼんやりと考えながら、廊下の端、窓際を歩いていると、前方からきゃあと女の子の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
　声のする方に目を遣(や)ると、数人の男子生徒がふざけて窓を全開にしていた。一瞬で大量の雨風が吹き込んできて、近くにいた生徒たちは髪を乱され制服を濡らし、きゃあきゃあと逃げまどっていた。
　当の男子生徒達は、敢えて雨風を浴びてふざけ合っている。廊下もあっという間に水浸しだ。
　とにかく窓を閉めなきゃと、そちらに駆け寄って、窓枠に手を掛けた。けれど暴風の抵抗を受けた窓は重く、なかなか閉まらない。

　苦戦していると、ひときわ強い突風が渦を巻きながら吹いて、びゅうっと木々の枝を巻き上げた。子供の腕ほどの大きさの枝がばきっと音を立てて折れ、勢いよくこちらへ飛び込んでくる。

　「先生！危ない！」

　誰かの金切り声が耳を打った。

　でも、駄目だ。避けられない。

　そう思って、咄嗟に目を閉じた。