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でも今の状態の俺にとっての一番の精神安定剤は、晃の匂いなんだけどね。…なんて言えるはずもないから笑顔でご飯を食べる。
瓶ビールに紹興酒まで飲んだ晃はふにゃふにゃと笑うようになって、それを見ているだけでも嬉しかった。
「なぁ悠馬」
「ん?なに?」
蒸し海老に夢中になっていた俺の隣に椅子を寄せてきた晃は唐突に肩を抱いて揺れ始めた。
酔っ払ってるなぁ。だからこんなことでドキドキなんかしちゃダメなんだ、よな。…アルファ同士の友達なら。
「ぅ、わ!なんだよもー!」
「いいだろ、別に男同士なんだから肩組もうぜ?」
「やだやだ酔っ払いめぇ」
「ふははは、そー酔っ払いだ」
「俺を慰めるとかゆって晃のがゴキゲンじゃん…」
呆れたような声を意識しながら出して内心では大喜びしてる天邪鬼にならなきゃなんない俺。しんどい。でも嬉しくてどうしたらいいのかもわからない。
「あのさ、悠馬。」
「も、なにー?」
「失恋ってしんどいか?」
「…なに急に。いままでアホくさって慰めはしても興味なかったくせに…」
「そうなんだけど。…お前は、」
言いかけてから急に黙った晃は、グッと肩を掴む手に力を込めた。
「いや、いいや。今聞くもんじゃないな。うん、ごめん。」
「ちょっ、いいよ、なに?こんなんされたら余計に気になるから!」
「あ、…いや。失恋してもすぐ次に行けるもんなのか、っておもってさ」
「それって俺が惚れっぽいから?」
「あ、えっと…まぁ。毎回あきもせず落ち込むくらい入れ込むのにまた恋できるから…不思議で」
晃が言葉を選んでもまったくフォローになってないし褒められてもいない、ことは分かる。
っていうかそもそも俺は晃以外に恋していないし、いままで誰も好きになったことなんかない。
それでもこんな誤解を招いているのは紛れもなく俺が「アルファぶっている」という嘘のせいだ。
毎月やってくる体調不良を胡麻化すために失恋したと嘯いては家に籠る。
興味もないのに女の子との出会いを夢見る恋愛脳のアルファを演じるのがラクで定着してしまったせい。
そして知らないからこそ、そんなことが言えるんだ。俺が、アルファだと信じているから。
「…な、に?あきらもしつれん、した、の…?」
「いや、俺のはそれ以前で、望みすらないな。」
「なに、それ…」
「自分でも、わからん。好きにはなったが、絶対に叶うことは無いってのだけは決まってる。…そういう相手だ。」
言外に「好きにならなければよかった」という台詞に、心臓が縮み上がる。
呼吸が止まりそうになるくらい、痛い。
それでも好きなんだね、その人のこと…と、言葉にして慰めるべきなのに出来ないよ。
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