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甘い匂いがする。
それも上等なアイスワインのような、蜂蜜に似たトロリとした甘さの中に僅かに果実が発酵した虫を誘う臭気が鼻を衝く。
(…これはオメガのフェロモンか?)
どこかの迂闊なオメガが自分のヒート周期も把握しきれないまま大学構内を歩き回ってでもいるのだろうか。
「ん?どうしたの晃(あきら)」
「…くさい」
「は、えぇ!?俺ぇ??」
「違う…なんか、オメガの臭いがする」
「あ、あ~…お前アルファだもんな。でもこの大学じゃオメガって数も少ないし殆どがアルファだからそのなかの誰かが恋人のオメガの臭いでもくっつけてきたんじゃないかぁ?」
にやにやと笑う同級生の中谷はくるりとあたりをみまわすと、うん、とうなずいた。
「あっそれかアノ人かも。ほら、沢村さん。あの人ってオメガだろ?あんなに大げさな首宛てまでしてるんだし。」
「沢村…初めて見たな。でもなんでさん付け?先輩か?」
「あぁ、たしかふたつ年上だって。目立つ首充てしてるからアルファによく声かけられるけど既婚者らしいよ。」
「結婚してるのに大学に通っているのか?」
「ね、ずいぶん理解ある旦那だよねぇ。それかどうでもいい扱いなんじゃん?普通はオメガってったら家庭に入って子育てに専念するもんなのに勉強するなんていつ離婚されてもおかしくない立場なのかもね。」
「ふぅん」
チラリと目で追った沢村さんとやらはあまりオメガらしい容貌ではなかった。
普通の男性(劣性)オメガは大抵小柄で線も細い。けれど彼は細身ではあるけれど小柄ではないしただの男に見える。
オメガと一目見てわかるのは中谷の言ったようにマーキング除けの首宛てをしているからでしかない。
それも一般的な幅広のチョーカータイプではなく首全体を覆うような大げさな旧時代的なものを。
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