1-2 天界

1/3
前へ
/351ページ
次へ

1-2 天界

 さて、時はしばし遡る。  頭上に輝く輪、背中に白い翼。切れ長の瞳の凛々しい天使が書類作成に没頭している。  その背後に異質の存在がじわじわと出現した。  まばゆい世界を切り裂く闇。それはまるで真っ白な半紙に墨汁が広がっていくような違和感だったが、天使は予想していたように悠々と振り返った。 「どうなさいました? あなた様が直々においでになるとは」  闇は人型になり美しい悪魔が立っていた。天使は椅子をすすめる。 「いらん。座るほど暇じゃない。それにこれは影で実体は別にある」 天使はこれみよがしに肩をすくめた。 「……魔界での噂ですけどね、どうも四大魔王の一人が城に魔法で仕立てた偽物を置いてちゃらちゃら人間界で遊んでいるらしいんですよ」 「ほー」 「どなかたは存じませんが職務怠慢ですよね。大事な業務もその偽物にやらせているとかいないとか。四大魔王の自覚が足らないにもほどがある」  嘆かわしいとばかりに天使は頭を横に振った。その嫌味な態度に悪魔が反論する。 「噂してるのはどこのどいつだ、連れてこい! 私の魔法は完璧だぞ、バレるわけがない」 「ま・さ・か、貴方様ではないと信じていたんですけどね!」 天使はわざとらしくため息をついた。 「あんなの偽物で十分務まる。城に籠ってハンコ押しばっかりだ」 「私は事態が公にならないうちに戻られるべきだと言ってるんです」  天使は心配性の老中のように悪魔を諭した。  天使は堅物である。研修生の頃から正義感と律儀さでは群を抜いていた。摩天学院の上級生である悪魔とは腐れ縁である。真っ向から正論をつきつけられ、悪魔はあからさまに不貞腐れた。
/351ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加