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「上に立ったら立ったで不自由が多くてかなわん。いつあるとも知れない反撃のために絶え間なく神経を尖らせてなくてはならない」
「ま、それだけ疑り深ければ、さぞかし世の中がギスギスして映るだろうな」
アスタロトの返事に、伯爵は耳をそば立てた。
「世界は等しく存在しているが、見え方は当人の感覚次第だ。暗い奴には世界も暗く見えるし、明るい奴には明るく映る。人の数だけ異なる視点がある訳だ。今のように疑い続ける限り安息はないだろう」
「私を非難するつもりか」
伯爵は気色ばんだ。だがアスタロトは酒を片手に続ける。
「いや、これは単なる憶測だ。ずっとうなされているから、念願の城主になった今ですら、おちおち眠っていられないほど孤立しているんだろうと。当たっていたか?」
「黙れ、酔っているのか」
伯爵はアスタロトからグラスを取り上げてテーブルに置いた。だがアスタロトは、こりもせずワインの瓶を引き寄せる。
「牢で存在を無視されるよりは、憎まれても認められた方がマシか? だが、それも愉快ではないだろう」
「もう飲むな。これ以上の失言は許さない」
「あいにく俺は酒には強い。素面同然だ」
伯爵はアスタロトの台詞を断ち切ろうとしたが、気にもせず続けた。
「だから教えてやろうと思って」
「何をだ」
「昼間、ショウが怒った言葉の意味だ。気になってるんだろう?」
アスタロトは水でも飲むようにワインを口にする。大の男でもひっくり返りそうな量をあけたはずなのに、顔色一つ変わっていない。
「見ていたのか?」
伯爵はかすれた声で聞いた。
「いや、本人から聞いた。打ち解けたくて必死なのはわかるが、あいつもやり方が下手くそなんだ」
「うちとける? 私と?」
「そう。つまりはそう言うことだ。伯爵の周りをチョロチョロしてるのも、耳障りな発言が多いのも、伯爵の注意を引きたいからだ。まあ、当たっているとはいえ、言い過ぎるのが馬鹿なところだが」
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