2-11 警戒

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 だが伯爵は自分のやり方を変える気はなさそうだった。伯爵ほどの頭脳があれば、暴虐がもたらすマイナス面も当然理解しているはずだが無視している。  欠落は多いが無能じゃない。この頑固者を果たして魔法抜きで、説得なんてできるんだろうか⋯⋯ 「きさま、それで報告のつもりか!」  ショウは、伯爵の怒号で我に返った。つらつらと考えごとをしていたので、とっさに状況が読めない。  伯爵は仁王立で従者を怒鳴りつけていた。誰もが息を潜めている。伯爵の声だけが雷のように轟いていた。  罵声の内容から察するに、従者はどうやら領地を偵察してきたらしい。その内容が不十分で叱られているのだ。恐れをなして誰も間に入れない。伯爵の怒りはエスカレートし、遂に従者の髪をつかんで床に頭を叩きつけた。 「やめて下さい!」  ショウは床に血飛沫が飛んだのと同時に、駆け出していた。 「死んでしまいます、いけません!」 「こんな役立たずが死んだところで何にもならん!」  伯爵の目付きは尋常でなかった。従者は額を割りぐったりしている。伯爵はショウを睨んだまま、ようやく彼を床に転がした。 「片付けろ」  伯爵は指にからまった従者の髪の毛を払い捨て、ドアに向かった。床におちた髪はまだらに血に染まってる。  ショウは気を失っている従者を助け起こした。伯爵はまったく加減をしなかったらしく、歯も砕け、口から流れ出した唾液交じりの血が喉まで伝わっていた。 「しっかりしなさい、いま手当を」 ショウが従者に声を掛けると、伯爵は足を止めて振り返った。 「余計なことをするな」 「いいえ伯爵、度が過ぎます!」 「手を出すなと言った」 ショウに当て付けるように、伯爵は従者に向かって唾を吐いた。 「手を出せば、いま殺す」  伯爵は腰に差した剣に手を伸ばした。ためらいは欠片もなかった。  ショウは思わず従者を床に戻した。伯爵はその動作を鼻先で笑い、再び踵を返すと帰見の間を後にした。ショウは気持ちが収まらず、部屋から出ていった伯爵を追いかけた。 「待って下さい!」 伯爵は無視して、自分の部屋に向かった。普段から伯爵はかなりの早足で、歩調を合わせるだけで息切れがする。
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