2-13 牢獄

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2-13 牢獄

 翌朝。  石の牢獄でまどろんでいたアスタロトは、全力で階段を駆け上がってくる足音に体を起こした。そろそろ来ると思っていたが、その慌てぶりに頭痛がしてくる。 「アスタロトさま!」  ショウは鉄格子の向こうにアスタロトを発見すると、血相を変えた。 「どうしてこうなるんです!」 案の定、ショウの第一声は石の壁に反響して響き渡った。 「お前、どこでその腹式呼吸を覚えたんだ。聖歌隊か?」 「生まれつきです、それより一体何なんですか、説明してください」 アスタロトはすっとぼけてあらぬ方向を見つめた。だがショウがその程度のリアクションでおとなしくなるわけもなく、尚一層声を張り上げる。 「朝起きてみたら、アスタロト様はベッドからいないし、捜してたら召使いがやけに同情的に私をチラチラ見るし、そしたら伯爵に友人は隔離したって言われるし、その隔離の場所を聞けば罪人をぶち込む牢獄だし! 私は驚きで声も出ませんでしたよっ、一体何をやったんですか!」 「驚きで声が出ないねえ。お前、意味が分かって使ってるか?」  アスタロトは耳を押さえた。ショウはその手を引き離してやりたかったが、鉄格子に阻まれて儘ならない。 「そもそも何で伯爵を怒らせたんです。研修の監視もせず、昼間も夜も食事以外は惰眠を貪ってるあなたに会うタイミングなんてないはずでしょう」 「おや失礼な言い方」 「事実です!」 ショウは憤然と言い放った。 「私が連日憔悴していくというのに、あなたはまるで別荘暮しの優雅さだったじゃないですか。行楽気分でちゃらちゃらしてるからトラブルに巻き込まれるんですよっ」 「これぐらいトラブルのうちに入らん」 「牢獄に閉じ込められてるんですよ?! これがトラブルじゃなくてなんだと言うんです、そもそも今回、伯爵と接触するのは私です。それをどうして一足飛びにあなたが」 ショウは眉間にしわを寄せ、言葉を区切った。そのわずか数秒の間に、彼の頭の中で推察がまとまり、唯一の答えが点灯しているに違いなかった。
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