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アスタロトがため息まじりに顔を上げると、陰鬱なショウの瞳とまともに視線がぶつかった。
「⋯⋯私に内緒で勝手に伯爵と親交を深めていましたね?」
ショウはアスタロトをねめつけたまま言った。
「いやー、その」
「私が疲れて死んだように眠っていた頃、ちょうど活動時間ですもんね。伯爵と接触する気になれば楽勝ですよね。私が躍起になって伯爵を説得しようと努力しているのを知っていながら、ご自分は夜な夜な伯爵とうまいことやってたんだ!」
「うまいくなんかないぞ、仲よくなり損ねたからこそこんな所にいる」
アスタロトは指先で石の床をつついて見せた。だが怒りでメラメラと燃え上がったショウは、さらに強く鉄格子を掴み直し、金切り声を上げた。
「ひどいじゃないですか! アスタロト様が研修につき合うのを嫌がっていたのは百も承知ですが、だからってこんな意地悪することないじゃないですか。私の単位取得を邪魔するのがそんなに楽しいですか。アスタロト様にとってはただの退屈しのぎでも、私にとっては大事な課題なんですからね!」
「別にお前の邪魔をしようと思った訳じゃない。はじめは本当に偶然だったんだ」
アスタロトは腕を組んで憮然とした。
「結果として十分邪魔になっています。相棒の片割れが牢獄に入れられるような状況で説得なんて夢のまた夢じゃないですか。なけなしの信頼関係もこれで玉砕ですよっ!」
「いいじゃないか、説得なんて嫌だったんだろ」
「そういう訳にいきますか」
「嫌々やってて他人の説得なんかできるもんか。どうせ駄目なんだから、ささやかな俺の邪魔なんてたいした影響はない」
アスタロトのあまりな態度に、ショウは悔し涙が滲みそうだった。
「はぐらかさないで教えて下さい! 何をしでかしたんです、それによって取りなし方も違います。こんな寒いところにいつまでもいられるわけがないでしょう」
「いいんだ、俺が急ぎ過ぎた」
アスタロトは、額を押さえた。
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