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「俺が悪い。伯爵に取りなす必要はない」
「なにをしたんです」
「だから仲よくなれたらいいな、と思って」
ショウは唖然としてアスタロトを穴の開くほど見つめた。
「⋯⋯誰と仲良く?」
「伯爵」
「本気で?」
「俺は別に伯爵は嫌いじゃない。夜ごと雑談に通ったのも、伯爵と話すのが楽しかったからだし、研修の邪魔をしようなんて思ってもいなかった。そもそもそんな手の込んだことをするほど、この俺が他人の研修に興味を持つと思うか」
「それはないですね」
ショウは即座に答えた。アスタロトがどこまでもマイペースだと言うことを彼はここ数週間で思い知らされている。
「でもそれじゃ、何が伯爵の気に障ったんでしょう?」
「強引に話を進めすぎて警戒されたまでだ。時間がないから俺が焦ったんだ」
アスタロトの言葉は、珍しく落ち込んでいた。
「俺のことは気にしなくていい。お前は研修を進めとけ。俺にしてみれば、牢屋で寝ようが、客間で寝ようが大した違いはない。お前の説得こそ漠然としているが、いったい何をどうするつもりなんだ?」
「なにって」
ショウは一瞬言葉に詰まった。だが、そこで黙っているとアスタロトに馬鹿にされるのはわかりきっていたため、つい、思いつくまま口走ってしまう。
「ええと、ですから、人間界での宗教は天界の教義に比べれば世俗的で勘違いも多いですけど、それでもあの残虐な伯爵に基本的な道徳心を植えつけるのには有効だと思います。そこで彼に城内の教会の解放と、領民への宗教の解禁を迫ります。
伯爵の父親の代には熱心な布教活動もあったらしいし、その名残りで敬虔な隠れ信徒も存在しているみたいなんですよ。ですから最終的には、伯爵がこの教会でそういった信者を招いて、祈りの時間を持つようになる⋯⋯というのが、私の目標⋯⋯なんですが」
「ほほう!」
ショウはあまりにも舌が滑り過ぎた事に気付いて青ざめた。いつもは人の話しなんて適当に聞き流しているアスタロトが、こんなときばかり熱心に相づちをうっている。
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