2-13 牢獄

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「いや、でも、あくまで目標ですからね⋯⋯」 「どんな遠大な目標でも、まずは思い描くところが始まりだ。お前がそんなにこの研修に本腰を据えてかかるとは思っていなかった。さすが人に努力だ忍耐だと語るだけあって、素晴らしい計画じゃないか。応援するぞ。伯爵の寿命が尽きるまでに達成できるといいな」 「いや、いくら私でもそんな」 「ほう、そんなに期間はかからないときたか! さすがだな」 「茶化さないで下さい。今の状況を百も承知で、意地の悪いこと言って! アスタロト様には言ったじゃないですか、そもそも私は天使なんて向いてないんですよっ」 「やーれやれ、まだそんなこと言ってんのか」  アスタロトは大義そうに立ち上がって、小犬のごとくわめきまくるショウに近づいた。鉄格子を掴むショウの手に自分の手のひらを重ねてぐっと握りしめる。 「まあどこまでやれるかはともかく気合いを入れて頑張れ。こうなった以上、お前が頼りだ。はやく俺をここから出してくれ」 「どっ、どうしたんです」 突然しおらしくなったアスタロトにどう対処したらいいのかわからず、ショウは口ごもった。アスタロトの手は氷のように冷えていて同情心が湧き上がる。 「こんな寒いところにおられるから心細くなるんですよ」 「いや、これは単なる泣き落とし」 アスタロトはにやりと笑った。真に受けたショウは、頭に血が上って鉄格子から手を放した。 「人に迷惑をかけたうえにからかうなんて最低です!」 「悪魔の言うことなんて信じるな。ほら、さっさと研修に励んでこい。こんなところで油を売ってたら百年たっても学院に戻れんぞ」 アスタロトはまだ笑っていた。ショウは一睨みすると踵を返した。確かに研修が長引くのはマイナスでしかない。 「ショウ、」 階段を降りようとした時、アスタロトの声が追いかけた。 「なんですか」 「お前は、研修だからやっているんだよな」 「そうですよ?」 「うん、いや⋯⋯いい」 気になってふり返ると、アスタロトはショウを見てはいなかった。灰色の壁を難しそうな顔で凝視していた。
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