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それにしても、なんだって伯爵にはこんなに甘いんだろう。
ショウはいままでさんざんアスタロトにされてきたワガママの数々を思いだして、苛々してきた。これ以上二人が楽しそうにしているのを見るのは、己の無力感を見せつけられているようで、やりきれない。
「おやいけない、少々お疲れじゃないですかー!」
腹立ち紛れに、ショウは強引に話を断ち切った。アスタロトの肩を押さえてベットに寝かせ直す。当然、伯爵はむっとしてショウを睨んだ。
「ショウ殿、まだ話の途中だ」
「伯爵、申しわけありませんが、熱が上がってしまったようです」
ショウも負けじと微笑んでみた。まったく伯爵には通用しなかったが、事実、体温は上昇していた。アスタロトはショウを揶揄うためならいくらでも騒ぐが、本当に不調な時は自分で言い出さない。
「病人には休養が必要です。ご理解下さい」
「つらいのか」
伯爵はショウを無視して、アスタロトに尋ねた。
「すまん、少し寝足りないらしい」
「そうか仕方ないな」
伯爵は残念そうに呟いたが、すぐに気を取り直した。
「まあいい、また来る。不自由があったら召使いに何でも言いつけてくれ。話は通しておくから」
伯爵はアスタロトの毛布を直すと、ようやく出ていった。
ショウは深々と嘆息した。
「⋯⋯どんな魔法です、アスタロトさま」
「まだそんなこと言ってんのか」
アスタロトはムクリと起き上がった。いつものくそ面白くもない顔に戻っていた。
「それよりプティングくれ、腹減った。減りすぎで寝られない」
ショウはぶつくさ言いながら、よけておいたプティングを用意した。
「どうぞ」
「うん」
アスタロトは重そうにスプーンを持つと、大きくすくって口に入れた。
「どうです?」
「うん甘い。しかも生ぬるいな。気配りが足りない」
アスタロトはやはり相変わらずだった。
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