2-16 変化

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 ……部屋が、狭い。  ショウはぐるりと室内を見回し、窮屈になった様子に眉をしかめた。  滞在当初から使っている客室だが、伯爵の見舞いによってまたたく間に物が増え、物置のようになっている。  見舞いは一週間に渡っていた。伯爵は政務の間をぬって日に何度も訪れる猛烈ぶりだった。ショウはその熱心さに面食らったが、伯爵が割に純粋な気持ちでアスタロトに会いにきているのを感じてさらに驚いた。  それにしても伯爵は程度を知らない。 「アスタロトさま、いい加減に断って下さいよ、伯爵は今日もまた何かしら持ってきますよ」 ショウは昼寝をしているアスタロトに訴えた。アスタロトはまだ風邪が治りきっておらず、気だるげに答える。 「いいじゃないか、伯爵の気持ちなんだから。お前だって見舞いの果物を旨い旨いって喜んでただろう」 「伯爵の心配は度を越してます!この凄まじい数の見舞い品々をどうするんですか、アスタロトさまは単なる風邪なんですよっ」 「それと重症の火傷だ」 アスタロトは付け加えることを忘れなかった。  それにしても部屋の中は贈り物で一杯だった。アスタロトがダークグリーンが好きだと言えば、その日のうちに絨毯からカーテンまで総取替えになるし、退屈しないように書物も山のように選んでくる。さらに動けないアスタロトの目を楽しませようと、部屋には季節の花を活けさせた。まるで花園である。 アスタロトはちらりとショウに視線をよこした。 「お前に文句を言われる筋合いはないぞ。この見舞い騒動でもっとも好都合だったのはお前じゃないか」 「それはまあ⋯⋯でも、ここに行き着くまでに散々攪乱されたんですから、それぐらいのメリットは認めて頂かないと」  ショウはもっともらしく頷いた。  実はアスタロトが寝込んでから、三人の状況が変化したのである。  アスタロトはベッドから動けない。動けないアスタロトに世話人のショウが四六時中はりついている。伯爵はアスタロトに会いに来れば、必ずショウにも会うしかないのだ。  ショウはこの状況が素晴らしい好機であると気がついた。今までは嫌がる伯爵を必死で追いかけまわして話をしなければならなかったが、アスタロトさえ側にいれば、伯爵は自らショウの前に現れるのである。  ショウはここぞとばかりに、道徳だの罪だのと議論をふっかけた。研修合格がかかっているため下手な宣教師よりよほど熱意あふれる説法である。むろん、議論と言ってもショウが一方的に語るばかりだが、千里の道も一歩からの精神で根気よくねばった。
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