2-16 変化

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「あ、そろそろ午後の会議が終わる頃ですね」 「そうだな」 と、そこへ。 「アスタロト、、今日の具合はどうだ」 抜群のタイミングで伯爵がドアを開けた。ショウは早速、椅子をすすめ、伯爵は当然のようにそこに座る。 「だいぶ良くなった」 「そうか、なによりだ」 「今、ちょうどアスタロトさまと祭りの話をしていたんですよ」 ショウもぐいぐいと割り込んだ。ここにきた目的はあくまでショウの研修である。アスタロトと伯爵が仲良くなっても仕方ないのだ。悪くはないが、まずショウと打ち解けるのが順序であろう。だから遠慮なく邪魔をする。 「伯爵、私思うに祭りとは祈りです。豊作を祈願し、その成就を祝う儀式的側面をもつ行事です。こちらの領地の林檎は素晴らしい。自然の恵みであれば、天に感謝を伝えることが優先されます。コンテストやパーティも楽しいでしょうが、本来の意義を思い出すのが重要ではないでしょうか」 伯爵は露骨に嫌な顔をした。アスタロトは二人に挟まれ、無口である。彼がもし正直な心情を口にだせたなら『静かに寝かせろ』の一言だろう。  しかし、ショウから監督らしく研修に協力しろと説教されているので、おとなしくしているのだ。 「それはそうと、うってつけなことにこちらには教会がありますよね」 ショウはさらに話を進めた。 「大変きれいな教会ですよね。聖なる場所で傲慢になりがちな日頃の態度を顧みてはいかがでしょうか。領民の皆さまも精神的に成長なさいます。いかがでしょう、こんなイベントは」 「その話は聞き飽きた」 伯爵は辟易して言った。  アスタロトは否定も肯定もしない。本当はショウの優等生発言をまぜっ返したくて仕方ないがじっと堪えている。ショウはぐいと身を乗り出した。 「伯爵、本日は殺生の無益さについて語り合いたいと思います。さあ、お茶をどうぞ。こういう奥の深い話は時間がかかりますからね」 ショウは手際よく紅茶をいれ、カップを渡した。伯爵はため息をついた。  ショウは情熱的に説法を始めた。アスタロトはあくびをかみ殺している。伯爵はとりあえず真面目くさった顔でお茶を口にした。
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