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2-17 祭事
それから数日後、奇跡が起こった。
城下は発表以来、騒然としており、冷静沈着なショウが小躍りする驚異の事態に発展していた。
伯爵が祭りの日に教会を開放すると宣言したからである。
「アスタロト様、どうです! ようやく私の努力が実ったんですよ。あの冷酷で残虐で血も涙もない伯爵がですよ。あの宗教根絶主義で道徳心から最も遠い男がですよ、教会を開放するってそう言ったんですよ!」
研修に手を焼いていたショウが、この百八十度の急展開を手放しで喜ぶのも無理はない。
「まあ、とにかく落ち着いたらどうだ」
アスタロトはショウとは対称的に教会解禁の発表を聞いても冷めていた。
「これが落ち着いていられるでしょうか!」
ショウはますます興奮して声を張り上げる。思わずアスタロトは耳を押さえた。ようやく起き上がれるまでに回復したが、キンキンしたショウの声は頭に響きすぎる。アスタロトは久しぶりにベッドから抜け出して、長椅子に座り直した。
「おかしいと思わないのか?」
「何をです」
ショウは浮き浮きしながら、答えた。
「だって、お前と伯爵は別段、仲よくはなっていないだろう」
「そんなことはありません。ずいぶん打ち解けましたよ。アスタロトさまが一緒にいるだけで、伯爵の攻撃度はかなりナリをひそめますしね。見舞いにくるたびに道徳について語り合った成果がでたという訳です。伯爵はわかってくれたんですよ」
「そうか? とてもそうとは思えない」
アスタロトは難しそうに頭を振った。ショウは気分を害して反論した。
「どうして私の喜びに水をさすんですかっ」
「だって俺だけが変だって言ってるわけじゃないもん」
詰め寄られて、アスタロトはパチンと指を鳴らした。お得意の次元調節魔法で、この城の中に巣くくっている怨霊たちを呼び出す。ショウはゾンビに囲まれて体を竦ませた。
「アスタロトさま! 早く追っ払って下さい!」
「失礼な、俺の顔なじみだぞ。この城のもと住人達だ」
「なんで幽霊なんかと馴れ合ってるんですか!」
「好きでつるんでる訳じゃないが、退屈しのぎに話を聞いてたら懐かれてしまったんだ。最近じゃ噂を聞きつけて成仏したいヤツが自主的に寄ってくるから、祓っても祓ってもキリがない」
「いつの間にそんな事になってるんです。あなたってひとは大人しく寝てることもできないんですか」
「安心しろ、お前は光が強くてこいつらは手出しできない。だからこいつらの声も聞こえないんだろうが、あいにく俺にはよく聞こえてしまうんだ」
「どういうことです?」
「警戒したほうがいいって言ってる」
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