2-17 祭事

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 アスタロトの言葉を加勢するように幽霊たちがざわついた。しかしショウはめげなかった。 「根拠を教えて下さい」 「それは無理だ。こいつらにはもう理路整然と論旨を述べられるほど脳みそが残ってない。勘や気配を伝えてくるだけだ。ここ数日、熱心に忠告してくる。どうだ、呑気に踊ってる場合じゃないってことがわかっただろう」 「そんな死に損ないの言葉なんてあてになりません!」 ショウはあくまで強気だった。 「アスタロトさまが投獄されたときは本当にどうしてくれようかと思いましたけど、今の伯爵は見違えるほど穏やかです。アスタロトさまのお見舞だって気遣いの塊じゃないですか。人間性が目覚めてきている証拠ですよ。  伯爵はこれまでの罪を悔い改める気になったんでしょう。だから教会を開放するんです。情を知って初めて己の業の深さを思い知る……まあ、私の説得が全てではありませんが、そのきっかけとして多少の役にたったであろうことは評価して頂きたいですね」 「よくそこまで都合よく解釈できるな」 アスタロトがぼそっと呟くと、ショウはまたもや凄い勢いで反撃した。 「事実じゃないですか! アスタロトさまこそ邪推がすぎます。第一、教会を開放したからって何が危険なんですか。この国で宗教弾圧をしているのは伯爵の領地ぐらいです。それに伯爵は教会を開放するだけで、強制参加させるわけでもない。まったくの自由意志で、神を信じるものはミサを許すって許可を出しただけなんですよ!」 「ああもう、わかった。それであれなんだな、お前としては、そのミサが終わった段階で、研修を打ち切りにして、ここを立ち去ろうって算段なんだな」 アスタロトは面倒臭そうに片手を振った。ショウは、そんなアスタロトの不機嫌さも気にならないらしく素直に頷いた。 「そうです。伯爵がここまで改心したら任務終了で充分だと思います。レポートを教授に提出しますから、アスタロトさまも私の出来不出来を報告して下さい」 「はいはい」 いいながらも、アスタロトは全く浮かない顔だった。ショウは多少ひっかりを感じてはいたものの、とりあえず隣りで論文の下準備にはいる。  頭の中で伯爵とのやり取りを反芻する。  大丈夫、伯爵は確かに約束したのだ。  この領地に、祈る神があってもいいと。
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