2-18 教会

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 嫌な胸騒ぎが戻っていた。しかし、教会の外で祭りは何事もないように続いている。林檎酒が樽でふるまわれ、人々は陽気にダンスや談笑に興じていた。ショウは一人、ハラハラしながら伯爵を捜す。 「なんだショウ、もうミサは終わったのか」 片手に林檎酒をもったアスタロトが声をかけてきた。 「まだです、それよりアスタロトさま、伯爵を見なかったですか」 「伯爵? いや、会ってない」 「どこにいるのか⋯⋯」  その時、夜を覆す勢いで視界が真っ白になった。  続いて鼓膜をつんざく爆音がした。重なる悲鳴。竜巻のように強い風に体がちぎれそうになる。ショウは瞬時に何が起きたかを悟った。 「教会」  ショウは振り返って最悪な現実に絶句した。一瞬にして教会が炎に包まれている。すでに四方から燃え崩れていた。これはただの火災ではない。故意に爆破されたものだ。 「⋯⋯大変だ」 ショウは呻いた。 「大変です、中に人が⋯⋯大勢人がいるんです、助けなくては!」 「待て、ショウ」  アスタロトの静止もきかず、ショウは教会に駆けていった。祭りの人々も夢中で教会に駆け寄っている。だがあまりに火の勢いが強すぎて、誰も近づけない。 「水を!」  ショウは叫んだ。突然の悲劇に民衆はおろおろするばかりだった。彼らは城内の勝手もわからない。どこに水源があるかも知らないのだ。しかもこんなとき率先して救助するはずの兵士たちがまったく見当たらない。 「池から水を! 早く!」  家族や知り合いが教会に入っている民衆たちは、不手際ながら必死で池の水を汲み始めた。だが、その程度の働きで火の勢いは収まらなかった。ショウは胸の前に十字を切った。強力な水の魔法だ。それ以外に考えられない。 「馬鹿、やめないか!」 ショウはアスタロトに腕を引っ張られて、人垣から連れ出された。 「アスタロトさま、あなたまでどうして」 「こんな大勢の前で魔法を使ったら取り返しがつかない」 「だって中に人がいるんですよ!」 「もう全部死んでる。生体反応がない」 ショウはへなへなとその場に座り込んだ。
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