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いよいよ炎は巨大な火柱となって天に届こうとしている。
風に煽られた火の粉がショウの頬を焦がした。悲鳴と絶叫が辺りを揺るがし、何も考えられなくなる。
さっきまで幸せそうに祈りを捧げていた人たちはもういないのだ。あの美しい教会に押しつぶされて。
ショウは立ち上がると、猛然と駆け出した。
「どこに行くんだ!」
「伯爵を捜すんです、決まってるでしょう!」
逆上したショウの勢いは、さすがのアスタロトでも止められなかった。病み上がりの体では後ろから追いかけるのがやっとだ。
「伯爵!」
ショウは叫びながら、城の中を走り回った。
長い廊下には誰もいない。祭りのために城の外に出払っているのだ。
「ま、待てショウ」
「待ちません!」
「そんなにやみくもに走ったって」
「これがぼんやり歩いていられますか!」
ショウは血まなこで伯爵を探した。伯爵のいそうな部屋のドアを片っ端から開けていく。だが伯爵はいない。
城の中をぐるぐると駆け上がって、屋上までたどり着いた時、ようやく伯爵の後ろ姿を見つけた。伯爵は屋上にきちんとテーブルと椅子をセッティングして、教会の燃える様子を見物していた。ショウは体中の血液が沸騰したような気がした。
「伯爵!」
ショウが怒鳴ると伯爵は待ち兼ねたようにゆるゆると振り返った。テーブルの上には並々と林檎酒で満たされたグラスがあった。そのガラスに赤い炎が反射している。
「どうだ」
伯爵は言った。
「この余興は気に入ったか」
伯爵は冷笑を浮かべていた。
出会った時に感じた、狂暴な領主そのものだった。怒りのあまり頭が真っ白になった。彼は拳を固めて伯爵に殴りかかっていた。
「おっと」
だが伯爵はそんなショウの動きを予測したように、軽く体をかわした。
「二度も殴られてやるほどのろまじゃない」
「なんて⋯⋯なんてことをするんです!あの教会の人、あれは、あの爆発はあなたがやったんでしょう!」
「ああ、教会のあちこちに仕掛けておいた。座席にも、マリア像にも」
「解放なんて嘘だったんだ!」
「この前殴られたとき、借りは高くつくと言ったはずだ」
伯爵は有無を言わさず、剣の柄でショウをつき飛ばした。
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