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「大魔王様もご健勝のようでなによりでございます」
「堅苦しい挨拶はよせ。そんな敬語を使ってると舌を噛むぞ」
天使は儀礼的な微笑を崩して、ふくみ笑いをした。
「大丈夫ですよ、私はあなたと違ってこういった挨拶は得意ですから」
「どういう意味だ。私だってできないんじゃない。好きじゃないだけだ」
「そんな事より今日は少々困った動きがありましてご相談に参りました」
悪魔はソファーに深く沈み込んだ。
「なんだ、克己の件じゃないのか」
「それどころじゃないんですよ。急に問題がおきまして」
「へえ、お前が人に相談なんて珍しい」
天使は肩をすくめた。
「買いかぶりです。それに今回あなたに相談するのは、手に負えないほど事が厄介だという訳ではないんです」
「どういう訳だ」
「あなたご自身が厄介事に深く関わっておいでなんです」
天使は書類の束を広げた。
「問題の場所はポイント20・3754」
「20・37……54?」
「そうです。先日、某人物により無許可の魔道が開かれ、その影響で周辺地区に大きな歪が発生しました。結界にヒビが入り、気流は乱れ……普通、こんな簡単に駄目になるものではないんですが、どうも、あの場所は地場が著しく不安定みたいですね。魔界気流・天界気流ともにつながりやすいようで……大魔王様?」
ウンともスンとも返事がないので天使は書類から顔を上げた。悪魔は苦虫を噛み潰したような表情で額を押さえている。
「その某人物っていうのが、私か」
「おや」
天使は切れ長の瞳をスッと細めて、からかうような口調になった。
「カンのいい方だ」
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